第26章 農業生活二十五日目 前編
「美味しかった?」
「ねぇ、僕がこの村に来た最初の理由を忘れてない?」
「あ・・・。」
リヒトは、私が作った最高の畑で育てた最高レベルの野菜が気に入ったんだった。でも、他の農家にだって、美味しい野菜を育てているところだってあるはず。
「持ち込みしてきた人に、莉亜の野菜を食べさせてあげたんだ。あっさりと、ご帰宅されたよ。」
「そ、そう・・・。」
「少ししつこかったから、有難かったよ。ごねられることなくお引き取りして貰えたから。」
そう大きくない村だからこそ、リヒトの様なお店に使って貰えるのは有難いと思う。普通ならば・・・。
「三度ほど、そういうことがあったんだけどね。」
何でもないように言ってのけたリヒト、いつの間に?
「僕は莉亜の野菜じゃないなら、使いたくないから。」
「あ、ありがとう。」
「お礼を言うのは僕の方だよ。それに、莉亜の手伝いをしているから、体も作られて来てるんだよね。」
体が作られる?はて?そう思っていると、リヒトに手を掴まれてリヒトのお腹に触れさせられた。
「どうかな?前より筋肉付いたと思わない?」
「え、ど、どうだろう・・・。」
「服の上からじゃ分かりにくいかな。あぁ・・・夜しか見る機会がないから分かり辛いのか。今、見たい?」
サラリと恥ずかしいことを言う。
「えっ、あ、い、今は大丈夫っ!!」
シャツを脱ごうとしたリヒトを、慌てて止める。こんな場所でリヒトの裸体は、恥ずかし過ぎるし勿体ない。いや、何を言っているか自分でも分からない。
「じゃあ、夜にね。さ、畑に行こう。」
夜・・・何されるんだろう?想像したら、鼻血出そう。
それでも、畑に行ったら作物の育ち具合を見て、楽しくなってしまう。苦手な人も多いけれど、セロリが美味しそうに育っている。これを出汁醤油に漬け込んだ浅漬けは好物の一つだ。それに、このほろ苦さが癖になる。珈琲などの苦さとは別物だ。
「莉亜、また味見?」
「リヒトは、セロリは好き?」
「特別にってまではいかないけど、好きな方かな。食べさせてくれるの?あ~ん。」
リヒトが口を開けるから、食べ掛けのセロリを口に入れた。すると、大きな吐息のリヒト。
「セロリがこんなに美味しいなんて思ったのは初めてだよ。」
艶めかしいリヒトの表情に、ついドキッとしてしまう。そんな時だった。