第25章 農業生活二十四日目 後編
「リヒトが言ったことを守って貰えるなら構わないですよ。それから、担当先の変更も考えていないので、今のままでってことも理解して欲しいです。」
「理由は?」
「リヒトがお店を始めるからです。ただ、担当先の契約分は何としてでも揃えます。私が賄える量として算出した出荷量ですから。」
コーラルは、考え込んでいる。
「リヒトの存在は、仕事量として考えていないってことか。」
「莉亜の仕事量と比べて、僕なんて些細な物だよ。比べること自体が烏滸がましい。それほどの経験を重ねているんだよ、莉亜はね。」
「分かった。気分を害させてすまない。だが、見るだけは見させて貰って構わないか?」
私が頷けば、ホッとした顔をした。コーラルはコーラルで、精一杯色々と考えているのだろう。その部分は理解できる。だからと言って、私だけが大変な思いをしようとは思わないけれど。
「明日、村長が街から戻って来る。だから、明後日にでも行かせて貰おうと思うのだが、構わないだろうか?」
「いいですよ。朝は甜菜の収穫をしようと思っているので、その時にでも如何ですか?体験してみるのも、いい経験かもしれませんよ。」
「そうだな、分かった。そうさせて貰おう。」
体験に来ることを約束しては、私たちは商店へと向かった。目的は、肥料の価格。三段階ある肥料は、価格は変わってはいなかった。だが、やはり高価だ。
それに、種や苗の品質もそういいものではなかった。私は三年目から、そう買い求めることが無かったから気にしていなかった。
ウチはウチの作物をシード機に入れて、次の種や苗にしている。品質の最高値のものをだ。だからと言って、気軽に分け与えられるものではないのだけど。
「莉亜が僕にだけ見せてくれた事、今更ながら気を引き締めさせられたな。ありがとう。」
「ううん。」
「僕が莉亜を守るから。」
始めから、リヒトに見せることに何も思わなかった。理由なんて分からない。でも、間違いじゃなかったって思えたんだ。
それに・・・住民が増えたけど、リヒトから心変わりすることもないし、あの時の私の決断は間違えてなかった。
そっと見上げれば、直ぐに私の視線に気づく。本当に気配に聡い。
「あぁ、収穫の時は、僕も勿論同伴するからね。」
「うん。ありがとう、頼りにしてる。」
ヤキモチと優しさを兼ねた申し出が嬉しい。