第23章 農業生活二十三日目
慌ててリヒトに近付き、シャツのボタンをもう一つ止めておいた。今更感が否めないけど。
「莉亜?」
「ボ、ボタンが止まってなかっただけだよ。」
「フフ・・・見せびらかしたかったんだけどなぁ。」
そう言っては、愉快そうに笑うリヒト。唖然としていると、リヒトの瞳が私を見た。色気の籠った眼差しに、思わず息を止めてしまう。
日に日に、リヒトの甘さが増長されていっている気がする。その瞳に引き寄せられる様に目を閉じれば、当たり前のように唇が塞がれた。
「フフ・・・嬉しいよ。莉亜がこんな風に僕を求めてくれるなんて。」
ハッと、我に返る私。何事も無かったかのように、離れようとしたのだけど・・・しっかり腰に腕を回されていて逃げられなかった。思わず砂糖を吐いた私。
今朝はチーズオムレツとトーストに温野菜。キノコのスープにカラフルなピクルス。前の様に、テラスで食事。
「オムレツ美味しい。」
「ありがとう。そうだ、パセリが欲しいんだけど、種あったっけ?」
「あるよ。苦いのが苦手だから、あんまり作ってなかったんだけど、スープに使ってる量なら大丈夫。美味しいアクセントになるんだね~。新しい発見かも。」
体にはいいのだけど、正直言って得意な方じゃなかったことを思い出す。でも、リヒトが必要だというなら栽培するのに異論などない。
「ありがとう。ほら、若い世代の集まりに作る料理に使おうと思って。みんなでシェア出来るものがいいかなって思ってるんだ。あぁ、そうそう。釜を作って貰うことにしたから。」
「釜?」
コテンと首を傾げると、嬉しそうに話してくれた。
「ピザ釜だよ。だって、材料が全て揃うでしょ?前々から、やってみたかったんだよね。キッチンの空いたスペースに、作ってくれることになったから。」
ウチのキッチン装備が凄いことになって来てる。数店舗分のお店真っ青な装備に、材料は問題なく揃えられるから意を決したらしい。
「莉亜は、ピザは好き?」
「うん。好き。」
「僕は?」
同じ様な質問する声色に、私はつられて「好き」と言ってしまった。いや、全然嘘じゃないからいいんだけど。
「僕も好きだよ。」
リヒトが笑顔なら、全然問題なしだ。さて、食事の後は畑の見回りと、パセリの種蒔きだ。