第19章 農業生活十九日目
畑の見回りをしてから、今日はさやえんどうを収穫。卵と一緒に軽く炒めたものが、私の好みだったりする。細やかな春の楽しみの一つだ。グリンピースやえんどう豆も欲しいので、全て収穫しないで残しておく。
「あっ!?忘れてた。」
次の瞬間、腕を掴まれていた。
「何をしようとしているのかな?」
「あ、その・・・梅の収穫?紫蘇も摘んで、梅干しにしたい。」
「そう。で、一人で行こうとしてた?」
リヒトの顔を見て、嫌な汗が流れて来そう。
「と、とんでもないです。」
「じゃあ、僕の思い違いかな?」
「そ、そうですね。」
咄嗟に動き出そうとした自分を恨みたい。無駄に行動力ある私を、リヒトは理解している。
「今日は収穫だけにして、明日、梅干しにしようね?」
「は、はい。」
畑の収穫を終え、温室にある梅の木へと来た。珈琲豆同様に敷物を敷いて、梅の実を落としていく。梅の匂いって好きなんだよね。
収穫した梅の実を袋に集めて、丁度、昼時になった。
「今日はカツどんにしようかな。折角、さやえんどうもあるから、これも使って卵とじにするよ。」
「うん。あ、私は・・・。」
「ダメだよ。さっきも、一人で家の裏に行ってたよね?今は一人にしたくない。」
真面目な顔をしたリヒトに、私は頷いた。
「分かった。」
「じゃあ、行こう。」
作業場に行き、カツどんのお手伝い。皆の分のカツは分厚かったけれど、私は少し薄目にしてもらった。大の男の人と同じ量は無理だと思うから。
代わりに、さやえんどうを少し多めにしてもらう。湯搔いたさやえんどうを味見しては、サラダにも投入。梅ソースのドレッシングを掛けてくれて、サラダが完成して出来上がった料理をジルドたちがいるキッチンへ運んだ。歓喜に沸くジルドたち。力仕事だから、余計に嬉しいのだろう。
ただ、お昼から作業場で作業をするので、用が無ければ邪魔しないで欲しいと言ったリヒト。邪魔の本当の意味を、誰もが理解していると思う。
要は、気を利かせろ的なことだと思われる。私はスルーしたし、誰も突っ込まない。それに満足したリヒトは、笑顔で私の手を引いて作業場へと戻る。
でも、想像通りの事では無かった事に、身をもって知らされることとなる。何処までも、リヒトは私を案じてくれていた。