第18章 農業生活十八日目
「赤と林檎・・・最後にオレンジと。」
独り言を呟いていると、ガサッと物音がした。目を向ければ、一人の女の人がいた。私と同世代の見た目だ。ゲームの中でも見たことのある、ルディの元彼女。
そして・・・浮気しつつも、リヒトにも言い寄っていたらしい人だ。浮気した相手のことは分からなかったけれど、この村か隣り村など近辺の人だろうと推測される。
「何かご用ですか?」
「ここ、倉庫なのね。見てもいい?」
私は足早に倉庫から出て、意地が悪いかと思ったが直ぐに施錠した。そして、ルディの元彼女であるジーナに向き直す。
「ごめんなさい。あまり部外者にはお見せしたくないんです。」
「何んで?見るくらい構わないでしょう。」
「ご自宅の倉庫は、そのように開放的に誰にでもお見せしているのですか?」
毅然とした態度で、そう言い返して見れば苦い顔をした。誰だって、部外者にホイホイと中を見せたくなどない。その気持ちは、間違いではなかったと表情を見て察することが出来た。
「ホント、飄々としてどれだけの事をしても興味を示さないし、怖気づくこともないなんて。」
言っている内容は、村の男性との出来事だろう。実際、興味無かったしどうでも良かったのは事実だ。何せ、私はゲームの中で作物を育てたかったのだから。
「ねぇ、僕の婚約者に何してるの?」
それは、とても冷たい声色だった。
「言ったはずだよね?僕の婚約者にちょっかいを出すなって。その足りない頭では、理解出来なかったのかな?」
いつものリヒトからは想像出来ない程の、容赦ない言葉だった。ジーナの顔色が変わっていく。
ジーナの目の前に立ち、腕を組んだまま見下ろしているリヒト。私の立ち位置からは、リヒトの表情を見えない。でも、怒っているのは分かる。
「あぁ、この前の様にいきなり服を脱ぎだすのは止めてくれ。僕も僕の可愛い莉亜にも、目の毒にしかならないから。」
カッと目を見開き、真っ赤になったジーナ。えっ、そんなことしたの?若干、ドン引きの私。
「莉亜、重いでしょ。僕が持つよ。」
私に向ける表情は、いつもの笑顔だった。
「あ、ありがとう。」
切り替えの鮮やかさに、私は暫し呆然。でも、リヒトに指を絡め取られ、家へと歩き出す。そして、一度も振り返ることはなかった。
家の中では、先にランチ中のジルドたちがいた。