第2章 穏やかな日々
髪の長い女性の後ろ姿をが目の前に立っている。
「いいえ!!その子は正真正銘あなたの子です!!!」
体に電撃が走る。
母の声だ。
「ではあの奇妙な容姿はなんなのだ?!」
目の前には父がいた。
そばにいた女房が声を荒げる。
私は父に抱えられていた。
5歳の頃の記憶だ。
「私が不貞を働いたとでも?!私はあなた様しか愛していないというのに、どうして他の男とつながりを持つことがありましょうか!!」
父も母を愛していた。
だからこそ、何も言えず見つめている。
止めてお父様・・・。
「ですが主上?生まれきた子は似ても似つかぬ容貌でありますのよ?」
母に向けた罵声とは違う、艶かしい声で語りかける。
やめて・・・、やめて!お母様!!!叫んでみるが声が出ていないようだ。
目頭が熱くなる。
「ならば・・。」
静かに女性が立ち上がり、刃物を持ち出す。
女房がニヤリと笑ったのを私は忘れたことはない。
「誰か!!女御がご乱心なされたぞ!誰か!」
女房が叫んだと同時に刃物を自分の胸に突き刺す。
「私の命をかけて・・・。その子が・・あなたとの子だと・・いう・・こと・・を・・・しょ・・ぅめ・・ぃ・・」
言葉は弱々しく、最後まで喋りきることなく母はなくなった。
襲いかかってくると思っていた女房は一瞬あっけにとられるも
「誰か!宮中で血を流すなど!汚らわしい!!!」
「主上・・見てはいけません、ここからすぐ離れなくては!汚れが!!」
抱えられた私を乱雑におろし女房は父を奥へと連れて行った。
バタバタと人が走ってくる音がする。
母の閉じられた目から一筋の涙が流れていたーーー。
この悪夢を見たのは久しぶりであった。
こちらの世界に来て初めて見たのである。
忘れていたわ、私がどんな存在かを。
「あーー。」
いつの間にかクライン邸に帰り昼寝をしてしまったようだ。
日が落ち始めてる。
夕方・・・。
イザークに連絡しないと・・・。
適当にお花のスタンプでも送り、電源を切る。
今日は誰とも関わりたくない・・・。