第24章 カレシとカノジョ

ゆっくりと時間をかけてキスをして、
それ以上にゆっくりと抱きしめあって、たっぷりと互いとキスの温度を味わって。
それから。

「…そろそろ、行くか？　買い物。
正直オレは今日一日このままでも良いんだが」

と声を掛ける。


「ふふ…もう、イグニスってば。
お買い物、行こう？　今日は私とデート、してくれるんでしょう？」
「いわゆる『おうちデート』というものに切り替えるのはどうだ」

食い気味にデートプランの変更を提案すれば、くすくすと嬉しそうに笑うグレイスの声が返ってきた。

「うんうん、きっとそれも楽しいと思うけど、おうちデートはまた今度にしよ？　ねっ？
だって私…初めてイグニスと二人きりでお出掛けで出来るの、すごく楽しみにしてたんだもの」

「…グレイス…」

今まではこうして求めるままに触れ合うことが出来なかった反動でついつい離しがたくなってしまっていたが…

（そうだな…これからはもう焦る必要はないということだな）

それに、『オレと出掛けるのを楽しみにしていた』と言われて、先程のにさらに追加でプレゼントを贈られたような気持ちになったし、期待を裏切らないでやりたい気持ちが湧いてきて、そっと腕の力を抜いてグレイスを開放してやる。

すると、オレの背中に腕を回したままのグレイスが柔らかく目を細めて言葉を続けた。

「もちろん、私も変にこじつけた理由も何もなしにハグできるようになったのすっごく嬉しいよ。

私も…イグニスとずっとこうなりたかった。

だから…
お出掛けする前に、もう一度だけ。キスとハグ、しよっか」

「グレイス…！」

咄嗟に、先程名前を呼んだ時とは明らかに違う、動揺だったり高揚だったりを含んだ声が出る。

その勢いのままグレイスを再び抱き寄せ、口付ける。

こんなに翻弄されて幸せなような情けないような…
この素直で可愛い年下のお姫様に、今以上骨抜きにされる日もそう遠くはさなそうだ…。