第3章 チェイスの賢い始め方※
「・・・どう言ったって、結果は同じです」
「違います」
私の言葉が終わるか否か。
その瞬間に、沖矢さんは私が腰掛けるソファーのすぐ傍へ勢いよく手を突いた。
こういう事をする時の彼は、加減というものを知らないのだろうかと僅かに視線を鋭くさせるが、沖矢さんはそれ以上の目付きで私を見下ろした。
「貴女の初めてというのは、一度しかなかったのですよ」
そう話す彼の声色は、さっきよりも確実的な怒りを感じるようなもので。
「・・・何が言いたいんですか」
何故彼が怒りをあらわにするのか。
済んだことを言っても、仕方が無いのに。
何に私は怒られているのか分からない、と更に睨めば、彼は諦めたようなため息を吐いて突いていた手を引いた。
「いえ、別に」
・・・何だったのか。
結局本当に分からずじまいのまま、彼から吹っかけてきた会話は打ち切られてしまった。
「・・・それで?本当にこれだけの為に呼んだんですか」
そもそも、こんな話をしに来たのではないと溜息混じりで尋ねると、彼はソファーの傍に立ったままこちらに視線を向けた。
「そう思われますか?」
今度は嘲笑うかのような態度で尋ねてくる彼に、思わず心の中で舌打ちをしてしまった。
回りくどい・・・彼のこういう所が苦手だ。
簡潔に、用件だけを私は伝えてほしいのに。
舌打ちを、心の中に留めた自分を褒めてやりたいくらいだ。
「!」
そう思っていた時、沖矢さんから突然何かが投げられて。
それを素早く受け止めると、そこには一つの指輪があった。
指輪と言っても、重厚感があり過ぎる、決して普段付けるようなものではなかった。
「なんですか・・・これ」
少なくとも、プレゼントでないことでは確かだ。
これがプレゼントだと言うのなら、彼のそういった類のセンスは皆無と言える。
「おや?ご存知ないですか」
ソファーに座り直す彼を目で追いながら、その指輪を指先で確認した。
中が空洞でも、何かが詰まっている訳でもなさそうだ。
本当にただの指輪のようで。