第3章 チェイスの賢い始め方※
「ミステリートレインの乗車に必要なパスリングです」
「ミステリートレイン・・・」
ベルツリー急行のことか。
話だけは聞いたことがある。
行き先不明だったり、車内で推理クイズがあることから、そう呼ばれていると。
「いつもは年に1度しか走らないんですがね。2日後に特別走行すると言うので」
「・・・それで?」
返答次第ではコレを投げ付ける、と目で伝えれば、彼は自分の分であろうパスリングを、ポケットから取り出した。
やはり乗るのは彼と2人。
それを察していると、そのリングは静かにテーブルへと置かれた。
「これに、バーボンとベルモットが乗るという情報を手に入れました」
「!」
バーボンと・・・ベルモットが?
「・・・どうしてですか」
その情報の出所もそうだが、何故組織の人間がミステリートレインに乗るのかが一番の疑問だ。
「シェリーという人物はご存知ですか?」
「名前だけは」
私の問いに、彼は組織のとある1人のコードネームを口にして。
久しぶりに聞く名前に、あの頃の感覚が少し蘇ってくるようだった。
そのシェリーの名前は、ベルモットやジンからよく聞いていた。
けれど、彼女が何者で、何をしている人なのか。
そういった類の情報は持ち合わせていなかった。
「彼女が組織から逃げたことは」
「・・・何となく」
あの人から、薄らそんな話は聞いていた。
逃げ切ることなんてできないことは、私が今一番よく分かっているが。
「彼女、組織では科学者として動いていたのですが、とある薬の開発中、同じく組織にいた姉をジンに始末されまして。色々あってシェリーも始末される所を、逃げ出したようです」
・・・そういえば、彼女には姉がいたな。
あまり組織の人間らしくない人だったような気がするが。
「何故、シェリーの姉は始末されたんですか」
ふと、何気なく聞いたことだった。
でもその質問をした瞬間、沖矢さんが纏っていた空気が一瞬、ピリッと張り詰めたようなものになったのは、間違いなかった。