第3章 チェイスの賢い始め方※
「もしそれが少しでも漏れたと思うなら・・・いつでもその引き金を引けばいい」
・・・やはり。
「それで、どうだ?」
嘘じゃない。
それは確証だったものが、真実へと変わるような感覚で。
「・・・分かった」
「よし、交渉成立だ」
呆気に取られるような少し間の抜けた返事をしてしまうと、彼は満足そうな笑みをこちらに向けて。
握っていた銃から手を離すと、そのまま部屋を後にした。
その時の安堵や疑惑や不安は、複雑に入り交じっていて。
同時に感じた、惨めなような、敗北感のような気持ちは、一生味わいたくないものだと思った。
ーーー
だから私は結局、あの人へ頼むことになってしまった。
彼は理由を聞いてもスコッチのように帰ったり、私を帰すこともなく、最後まで私を抱いてくれた。
「・・・沖矢さんには、関係ありません」
そこに、あの人からの恋愛感情というものは無かったけれど。
その方が、結果は良かったのだろうと思う。
「いえ、その頃僕も組織にはいましたから。喜んで相手をできたのに、と思っていたんですよ」
・・・例え、その時に沖矢さんと出会っていたとしても、頼んではいなかっただろうなと彼を一度見ては、すぐに視線を外して。
「いずれにせよ、もう捨てましたから」
・・・幸いというのか、今の所はその1回のみとなっている。
正直、2回目なんて無いとも思っているが。
そんな事を思いながら息を吐いた瞬間、目の前のソファーに座っていた沖矢さんは、何故か徐ろに腰を上げて。
「・・・その言い方は、些か不服ですね」
そう言いながらゆっくりとこちらに近付いてくると、彼は私の目の前で立ち止まった。
その声色はどこか怒っているようにも聞こえるもので、思わずそれが正しいのか判断する為に彼の表情へと視線を向けた。
「何が、ですか」
その瞬間、先に私の耳に届いて感じ取った彼の感情は、恐らく間違いがないと察した。
「貴女が言った捨てる・・・というのは、表現上正しくないように感じます」
表情にも、その怒りが僅かに現れているようで。