第3章 チェイスの賢い始め方※
「・・・ッ!!」
手馴れていないと思っていたが。
もしかすると、見当違いだったかもしれない。
一瞬で変わった目付きが、私にそう判断させた。
「・・・ウェルシュ」
「な、に・・・」
徐ろに私の名前を呼んだスコッチは、鋭く、何かを捕らえるような視線で私の目を見てきて。
その視線で首を絞められるような感覚に陥り、呼吸が更に苦しくなる中、切れ切れな声でなんとか返事をした直後。
「君、初めてだろ」
「!」
彼から出た言葉に思わず目を見開いて反応を示してしまった。
「・・・やっぱりな」
それを見て確信した彼は、覆い被さっていた体をゆっくりと起こして。
ドッと溢れる冷や汗と震える手は、恐怖を示す以外の何ものでもなかった。
「体だけにしては、快楽を求めていない。あと、無駄に力が入り過ぎだ」
スコッチにつられるように私も体を起こすと、彼は確信した理由を並べた。
「・・・意外に慣れてるのね」
「慣れてない。慣れてたら知らないフリをして抱くだろ」
失敗した。
そう思う要因の1つが自分の行動というのは勿論だけれど。
一番の失敗は・・・彼を選んでしまったという所か。
「まさか、初めてだから俺に言ったのか?」
「・・・悪い?」
開き直りだ。
今の私には、悔しいがそれ以外できなくて。
「いや・・・光栄だけど。でも、それを聞いたら君を抱くことはできないな」
「・・・バーボンに話すのかしら?」
これは、もう。
私は組織から早めに手を引いた方が良いかもしれない。
相手はスコッチだが、ボロを出してしまった時点で疑われていると言っていい。
「俺がそんなに悪い奴に見えるのか」
「組織に良い奴なんていないわよ」
そして、行為の経験が無い、なんて人間も。
組織にいるはずがない。
「それもそうか」
何故かクスクスと笑うスコッチに目をやりながら、はだけたバスローブを正すと、枕元の近くに置いた銃へと静かに手を伸ばした。