第3章 チェイスの賢い始め方※
「・・・っ」
スコッチに言われた通りに目を瞑ると、自分の鼓動が聞こえてきそうだった。
・・・早く。
早く終わってしまえ。
そうひたすら願うように脳内で唱えていると、近付きかけていた彼の気配が、何故か頬に触れていた彼の手と共に消えた。
「・・・やっぱり、これはよそう」
彼のその言葉と共に、閉じていた瞼は開かれて。
これ、ということは。
「キスはしない。それでどうだ?」
予想通り、彼からそう提案をされた。
スコッチのその拘りはよく分からなかったが。
そんなもの、あっても無くても変わりない。
その時はそう思っていた。
「・・・どっちでも構わないわ」
何故彼がそうしたのか。
その時は知ることができなかったけれど。
「・・・っ・・・!」
そんなことを考える隙は、今は与えられなくて。
一瞬、気を緩めたその瞬間を、彼は見逃さなかった。
軽く押されただけのはずだったのに、私の体は見事にベッドへと倒された。
すかさず、その上に跨るようにスコッチが四つん這いになると、視界は彼で埋め尽くされた。
「もう一度聞かせてくれ。どうしてオレを誘ったんだ?」
・・・怪しまれた、だろうか。
こんな事ならやはり、ライに言えば良かっただろうか。
今更遅い考えを巡らせながら、圧迫感から逃れるようにスコッチから視界を外した。
「・・・ウェルシュという酒は、一度廃れて復活する際、スコッチをウェールズで混ぜて瓶に詰めただけのものを売ろうとしたらしいわ」
本当に・・・誰でも良かった。
「実際はそうならなかったけれど・・・スコッチというそれに、近しい何かを感じたのよ」
リスクの少ない人間であれば、だれでも。
「・・・そんな乙女な理由じゃ、ダメかしら」
「いいや・・・良いんじゃないか?」
身近な人の中で・・・それがただ、スコッチだっただけ。
それだけだ。