第3章 チェイスの賢い始め方※
「スコッチが良い・・・っていう理由じゃ、ダメかしら?」
理由は、単純だった。
彼が一番・・・口が硬そうで、手馴れていなさそうだったから。
「それとも、良心が働くとでも?」
あとは、彼なら断らないと思ったから。
それ以上もそれ以下も、大きな理由なんてない。
ただ、都合が良かっただけ。
「・・・分かったよ。場所を移そう」
額に手を当てながら溜息混じりにする返事は、渋々といった様子が目に見えて。
仕事の時の目付きは鋭いが、意外と物腰柔らかで、お人好し。
そんな彼が組織にいる理由は知らないが。
・・・どこかで彼は、敵ではないと確信していたのかもしれない。
ー
彼に連れて来られたのは、とあるホテルだった。
チェックインから部屋に来るまで迷いなく進んだことから、彼はここが初めてでないことは察した。
恐らく、普段は情報交換に使っているのだろう。
女を連れ込むようなホテルではない気がする。
「シャワー、先に行かせてもらうわよ」
「ああ」
そんな場所を選ばれたのは些か気にはなったが。
「・・・っ」
関係ない。
どうせ捨てるだけの作業だ。
そう言い聞かせながらシャワー室に入り、鏡に映る自分の顔に目をやって。
酷い顔だな、と自らを心の中で罵ると、多少はマシな目付きになったように思えた。
彼にとっても、吐き出すだけの行為。
そこに互いを思いやる気持ちなんてない。
ただ、黙って・・・やり過ごせば良い。
これを遂行しきれないなら、私は・・・。
ー
シャワーを済ませると、入れ替わりでスコッチがシャワーを浴びに行って。
肌に当たる水音を確認すると、念の為、不審なものがないか部屋を見回した。
「・・・・・・」
特に、ない。
スコッチはそういう事をする男ではないと思っていたから選んだのに。
結局信じる事はできないのだと、自分自身にため息を吐いた。
「・・・・・・」
結局、男なんて。
そう悲観的になるのは、未だに私を縛る過去の出来事があるせいで。