第1章 朝日は終わりを告げた
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「・・・お久しぶりです」
その日の夜。
ポアロでの仕事を終えると、バーボンが後をつけてきていない事を何度も確認し、公衆電話からとある人へと電話を掛けた。
『君から連絡してくるなんて珍しいな』
「少し、不都合な事が起きたので」
もう、私では務まらない。
「バーボンが・・・安室透として、ポアロに潜入してきました」
私はまた、この人の役に立てなかった。
「・・・どうしますか」
とりあえず、身を引く時期を聞いておかなければ。
きっと今夜だろうから、今日は忙しくなりそうだ。
『気にせず、そのまま潜入を続けてくれ』
・・・というのは、どうやら杞憂だったようで。
彼からの返答は予想と反するものだった。
「で、でも・・・彼は私に気付いているかもしれません・・・っ」
命をかける覚悟はあるが、私達やコナンくんに不都合があってはならない。
それが未然に防げるのであれば、それが最善の策だと思ったが、彼はそう判断しなかった。
『寧ろ好都合じゃないか。奴らの情報が得られるかもしれない』
前向きに考えればそうだけど。
『大丈夫だ。今は何もせず、君はただあの少年を監視していれば良い』
結局彼は、私に任務続行を告げた。
「・・・分かりました」
納得はいかなかったが、私に拒否権は無い。
俯きながらも受け入れる返事をすると、彼は最後に一言付け足して。
『ただ、警戒は怠るな』
そう言って、電話は切られてしまった。
「・・・・・・」
バーボンの目的が分からない以上、こちらから正体を明かすことはできない。
今の所は、しらばっくれるしかない。
それでいて、江戸川コナンを監視するという役目は変わらない。
・・・これは身を引き締めなければ、痛い目をみる。
とぼとぼと1人帰路に着き、一応の帰宅場所であるアパートの玄関前で、カバンから鍵を取り出そうとしたその時だった。
「ひなたさん?」
「!」
まさかこんな所で、その声を聞くとは思っていなかったから。
うっかり握った鍵を、落としてしまった。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます・・・」
それを拾った人物・・・安室透は、そつのない笑顔で私の落とした鍵を差し出した。