第1章 朝日は終わりを告げた
まさか。
・・・まさか。
「ひなたさんもこちらにお住いなんですね」
住んでいる場所まで調べあげてるのだろうか。
「も、という事は・・・安室さんもここに?」
「ええ、最近越してきたばかりなんですが」
そう言って彼は、私の隣の部屋を指差して。
流石に背筋がヒヤッとしないはずがなかった。
「運命、感じますね」
・・・これが運命なのなら、私の運命は相当悪いものらしい。
「どう・・・でしょうね?」
笑顔でそれとなく返事をしては、鍵穴に鍵を差し込んだ。
・・・部屋に入られたりしてないだろうか。
都合の悪いものは置いていないけれど。
まだこの男に正体がバレる訳にはいかないから。
「では、私はこれで」
そう言い残すと、素早く部屋へと入って。
・・・不自然だっただろうか。
そう思う程、この行動は私らしくなかった。
「・・・・・・」
・・・私らしく・・・ない。
私、らしく・・・?
私らしいとは、何だろう。
・・・どれが、本当の私なのか。
分からない。
ーーー
「ひなたさん、今度一緒にご飯に行きませんか?」
次の日、動揺が無いとは言えない状況だったが、安室透と2人でポアロにて仕事をしていた時だった。
平日の緩やかなランチを乗り越え賄いを食べていると、彼から急にそんな事を言われた。
「今、食べてますよ・・・?」
賄いとはいえ、これも食事だ。
それも、他に誰もいない。
2人きりの食事。
「仕事中ではない、ひなたさんを見たいんです」
・・・本当にこの男は。
心の中で大きくため息を吐きながら表では笑顔を向けると、食べ終えた食器を持って立ち上がった。
「普段の私は面白くないですよ?」
「そんな事ありません」
何の根拠があってそんな事を言っているのか。
本当の私のことなんて知るはずも・・・。
「・・・・・・」
本当の、私か。
「ひなたさん?」
「・・・あ、すみません。ちょっと、ぼーっとしちゃいました」
しまった。
またいらない事を考えてしまった。