第3章 チェイスの賢い始め方※
「・・・・・・」
その歩く姿を見ていると、やはり感じる違和感のようなものがある。
懐かしさと、どこかで見た、という不確かな記憶。
それがずっと引っ掛かっていて、気持ちが悪い。
「ひなたさん」
「は、はい・・・!」
眉間に皺を寄せたまま突っ立った状態でいると、突然ポアロの扉が開き、中から安室さんが顔を出して。
仕事を放置してすみません、と謝罪すれば、彼は柔らかな笑みで、大丈夫ですと答えた。
「それより、マスターから電話です」
「分かりました、すぐ出ます」
・・・最近、表情に崩れが出ている気がする。
今も、ちゃんと笑えているかどうか分からない。
分からないけど・・・やるしか、ない。
ーーー
「・・・・・・」
その日の夕方、私は約束通り工藤家へと出向いた。
インターホンを鳴らせば、ニコニコと何を考えているか分からない笑みを浮かべた沖矢さんが出迎えて。
奥の部屋へと案内されると、ソファーへ腰掛けるように指示された。
「コーヒーと紅茶、どちらにされますか?」
「結構です。他人の出された物に、口を付けたくないので」
今日も、室内にカメラは無さそうだ。
盗聴器は・・・堂々と探しても良いけれど、聞かれて困るようなことを、口にしなければ良いだけだ。
「そうですか、残念です」
相変わらず言葉と表情が一致していない。
けれど態度だけは渋々、といった様子で沖矢さんは私の目の前に腰掛けた。
「でも彼が作ったものには、口をつけられますよね?」
そう言われ、一瞬何の事かと小首を傾げたが。
安室さんが作った賄いを食べている所を、彼に見られた日があった事を、ふと思い出して。
「・・・あれは、食べない方がおかしいじゃないですか」
きちんと、彼が何も入れないことは見届けていた。
それにあれは仕事の内だと返せば、そうですか、と再び言葉と声色が一致していない態度で返された。