第3章 チェイスの賢い始め方※
コール音が耳に響く度、その不安は大きくなる一方で。
けれど、そのコール音が鳴り止むことはなく。
結局、その日はあの人に電話が通じることはなかった。
「・・・・・・」
繋がらなかった電話を切ると、スマホを元いたポケットへと帰して。
さっきから感じる妙な胸騒ぎを抑えるように、胸元の服をギュッと掴んだ。
・・・何だろう。
何故、だろう。
さっきの沖矢昴という男に、そこまで警戒心が働かなかったのは。
距離を縮められたどころか、触れられたにも関わらず、体が動いていた。
それに・・・認めたくはないけれど。
ほんの、本当に僅かな心の隙間が、そこにはあった。
でもその理由が、分からない。
「・・・・・・」
やはり、昨日よりもずっと前に・・・。
あの男と会っているのだろうか。
ずっと、そんな気もする。
だとすると、やはり組織か。
イギリス・・・ではない。
・・・アメリカ?
日本という可能性も、無くはないが。
何にせよ、あの人と早急に連絡を取らなくては。
・・・あの人の声を聞かないと、この胸のざわつきを抑えられそうにもない。
ーーー
あれから沖矢さんは毎日、ポアロに顔を出した。
その度、安室さんとは険悪なムードを作って帰る。
数日間はそんな日々が続いた。
沖矢さんからコンタクトがある訳でもなく、ただ毎日コーヒーを飲みに来る彼に、暇なのかと思いつつも笑顔で接客はした。
あれから彼のことも一人で調べてはみたけれど、ただの大学院生という情報しか出てこない。
それ以前の記録すらない。
あるのは、怪しさだけで。
「ひなたさん」
「はい」
今日もまた、彼はいつものコーヒーを頼んでは、カウンター席に座って。
ただ、その日は珍しく、そこから私に呼び掛けた。
彼が毎日来るせいか、安室さんも仕事が入っていないのに、毎日ポアロに出てくるようになった。
私としては、迷惑極まりない話で。