第3章 チェイスの賢い始め方※
「今更、変な質問しないでください」
・・・何故だろう。
沖矢さんは正体を知ってしまったせいか、素直に体が動いてくれた。
「誰にどこまで、何を聞いたのか知りませんけど。他人からの情報を簡単に信じるんですね?」
まあ、私も大概だとは思うが。
「ええまあ、それなりに信用できる方からの情報ですので」
信用できる・・・か。
スコッチとは相当親密だったということなのか。
だったら私も、やはりこの男とはどこかで会っている可能性が高い気もするが。
「勿論、貴女も信頼していますよ」
も、と言われてはいるけれど。
信用と信頼は違う気がする。
「・・・そうですか」
私がこの男を信用し、信頼できる日は、近い未来の話では無さそうだが。
「では、私はこれで」
・・・この判断が良かったのかどうか、まだ分からない。
結局私の独断で動いてしまったからには、私達や、あの人に不都合や迷惑がかからないようにしなくては。
「ひなたさん」
「なんですか」
適度な距離感を保ちつつ、近付き過ぎない。
バーボンのことだけでなく、私達の情報まで搾取されては元も子も無いから。
そんな敵意を向けながら沖矢さんの呼び掛けに振り向くと、人の良さそうな笑顔を浮かべながら、彼は手を軽く振って。
「また、明日」
「・・・・・・」
そう言って、私を見送った。
明日、会う約束なんてしていないのに。
まさかまた、ポアロに来るつもりだろうか。
できれば明日は会いたくない、と表情で返事をしながら玄関の扉を開いて。
工藤邸を後にすると共に、ポケットに入れていたスマホを素早く取り出した。
「・・・・・・」
何も考えず、ただあの人に電話を掛けた。
さっきまでの出来事を報告するつもりではあったけれど、それ以上に。
何か言いたいことがあるはずで、掛けていると思うのに。
その何かは、自分ではハッキリ分かっていなくて。
半ば不安という理由で電話を掛けていると言っても、間違いではなかった。