第3章 チェイスの賢い始め方※
「・・・そういえば、沖矢さんって今どちらに・・・」
「おや、言っていませんでしたか」
一緒に住む、と言われて、そう遠くない場所なのだろうとは思っていたけど。
まさか。
ーーー
「・・・お邪魔、します」
今彼が住んでいるのが、あの工藤邸だとは思わなかった。
下見も兼ねて今から来ないか、という新手の誘い文句にまんまと乗せられてしまった私は、その立派な門を通って彼の開けた玄関から恐る恐る、足を踏み入れた。
「どうぞ。と言っても、僕の家ではありませんが」
その通りだ。
そう思いながら辺りを見回して。
「・・・・・・」
・・・日本ではないようだ。
まるで、ロンドンにでもいるような、少し懐かしい気持ちになった。
いや、そんな事より。
確認しておかなければ。
部屋の隅、棚の中、植木の近く、家具の隙間。
一応、目につく場所は見ながら足を進めたけれど。
・・・特に怪しいものは無さそうだ。
この状況で盗聴器は確認することが困難だが、少なくともカメラがある様子は無い。
「紅茶かコーヒー、どちらが良いですか?」
「結構です。一通り間取りを見たら、帰りますから」
彼が入っていったキッチンを横目に確認しながら、更に奥へと進んで行って。
工藤邸の主人は、あの小説家の工藤優作だったはずだけど。
でもここには、沖矢さんの生活感しか感じられない。
いや、寧ろ・・・沖矢さんの生活感も、薄い。
「・・・・・・」
工藤家と、どういう関係なのか。
それはこちらで探るのが良いのか、直接聞いても良いものか・・・。
聞いた所で、素直に答えるとは限らないけど。
「ひなたさん」
「ッ!!」
1人奥へと進み、工藤優作氏が使っていたであろう書斎の机を眺めていると、突然背後から声を掛けられて。
慌てて振り向きながら距離を取ると、咄嗟に身構えた。
・・・また、気配がなかった。
気を抜いたつもりはなかったのに。