第3章 チェイスの賢い始め方※
「いえ、貴女を味方に誘ったのは単純に戦力になると感じたからですよ」
逆に動揺を誘う為だと言ってくれれば良かったのに。
それなら単純に彼にも、成功だと言えたのに。
そう言われると、妙に胸のざわつきが出てきてしまう。
・・・勝手に向けられるその期待が、どれだけ苦しいか。
少なくとも、今の私ではその言葉で喜べない。
俯いてそのざわつきを治めようとしていると、彼は。
「バーボンに探りを入れるには、絶好の餌ですからね」
そう、私に言い放った。
・・・成程。
その納得と共に、胸のざわつきが治まった。
「・・・・・・」
何の協力かと思ったが・・・バーボンについて知りたいのか。
「あの喫茶店で、彼が貴女を手に入れたいと思っていることは確信しました。でしたら手は早くに打つべきだと思いまして」
こんなの協力というより。
・・・利用じゃないか。
でも、私に期待を持たれた訳では無いんだと思うと、少し安堵もしていて。
「沖矢さん、モテないんじゃないですか」
イラついた腹いせと言うのか、無駄に胸をざわつかせた彼への八つ当たりと言うのか。
そもそも、惚れた女を男を釣るための餌にするなんて、まともな人間が考えることではない。
ため息混じりに心の声を口に出せば、彼は何故かクスッと笑いを漏らした。
「自分が愛する人から嫌われなければ、それで構いません」
・・・何て前向きなのか。
そういう所は見習いたいと思うが。
「つまり、ひなたさんが僕を好きになってくれれば、問題無いということです」
そういったいい加減な所は見習いたくない。
「・・・無いですね」
餌に使う女を手に入れておきたいだけだろう、と今度は口には出さないが、心の内に零して。
それにもう、恋だの好きだのという感情は持つだけ無駄だ。
どうせ叶うものでもない。
そんなもの、弱み以外の何ものにもならない。
それを自ら望むなんて。
・・・馬鹿げてる。