第3章 チェイスの賢い始め方※
「ちゃんと理由を聞かせてください」
「素の貴女はそういう雰囲気なのですね」
・・・この男、ふざけているのだろうか。
「沖矢さ・・・ッ」
「少し僕と、一緒に来てくれますか?」
つい、声を荒らげてしまいそうになった。
それを止めるように彼が言葉を挟めば、冷静さは一気に戻ってきて。
この男は私が如月ひなたであると分かった上で攻撃を仕掛けてきた。
その上、あの実力だ。
ただの大学院生で済まされるはずがない。
どうせ探らなければいけないんだ。
なら、都合が良い。
「・・・分かりました。でもその前に、この男を・・・」
彼の背後で伸びている男に視線を移しながらそう答えると、沖矢さんも軽く後ろへ首を向けながら、いつもの不敵な笑みを浮かべた。
「ああ、それなら心配に及びません。そろそろ警察が来る頃です。なので早めに去りましょう」
・・・いつの間に手配したのか。
私の前に現れた時にはそんな隙は無かったはずだ。
だとすると、通報してから攻撃を仕掛けてきたということなのか。
・・・益々意味が分からない。
「そんなに険しい顔をすると、可愛い顔が台無しですよ」
私の隣を通り過ぎながら、何食わぬ顔でそんな事を言われた。
場合によっては、これから良くないことが起こるかもしれない。
取り急ぎの連絡として、こっそりあの人にメールを送り付けると、沖矢さんの後を小走りで追いかけた。
ーーー
「緊張されているのですか?」
「・・・まさか」
どういう訳か、あの後沖矢さんの車に乗せられては、どこかに連れて行かれていて。
このまま山奥に連れて行かれ、始末されてもおかしくはないけれど。
でも、何故か彼には・・・大きな警戒心が働かない。
別の警戒心はあるけれど。
「あの、沖矢さん」
「何ですか」
私が聞きたいことなんて、全部分かっているくせに。
この男、逆鱗には簡単に触れてくるようだ。
「さっきの・・・どういう意味ですか」
彼は私の実力を見る為だと言った。
何故そんな必要が彼にあるのか。
皆目見当もつかない。
・・・ことも、ないが。
「ひなたさん」
一息間を置くと、彼は何故か改まった様子で私の名前を呼んで。
何を言われるのかと身構えては、運転する彼にチラリと視線を向けた。