第3章 チェイスの賢い始め方※
「ぼ、僕は・・・」
・・・違う。
この男はポアロのお客さんじゃない。
その一言があれば確信できた。
それだけ確認出来れば十分だ。
「・・・失礼します」
「えっ・・・」
一応、これからすることに断りを入れて男に近付き、目の前に立つと、みぞおちに一発拳をねじ込んで。
「っぐ・・・ッ!?」
呼吸をしづらくさせて蹲った所で、素早く急所に手刀を叩き込んだ。
「かは・・・っ」
呆気なく倒れた男は、地面に頬を擦りつけて意識を飛ばして。
それを見下ろしながら小さくため息を吐き、自分のスマホを取り出すと、念の為伸びている男の顔の写真を撮った。
「さて、と・・・」
一応大丈夫だとは思うが、この男が本当に無害なのかどうか確認しなくては。
ハンカチを手に、男のポケットからスマホを取ると中身を軽く確認してみた。
・・・が、どうやら本当にただの変質者だったようだ。
こんなどうしようもない人間がいるのだと思うと、眉間のシワも深くなる。
持っていた男のスマホを放り投げ、ハンカチをポケットに突っ込むと、もう一度ため息を吐いた。
あの人に連絡を入れるついでに警察に連絡を入れるか、と防犯カメラの情報をスマホで確認しようと開いた。
・・・そう油断した一瞬だった。
「・・・ッ!!」
背後から、異常な殺気。
さっきとは比べ物にならないものだ。
それが頭部に向かってきていると察した瞬間、どうにか頭を下げることはできた。
それと同時に、振り向きつつ距離を取って。
「誰・・・っ」
相手の拳か何かが頭上を切った。
頭を下げていなかったら、まともに食らっていた。
伸びているこの男を囮に使ったのだろうか・・・あまりそんな風には感じなかったが。
相手の姿を確認してみようと試みるけれど、暗闇で暗い色の服を着ているせいで、ハッキリ確認ができない。
とりあえず攻撃を避けつつ、明るい場所に行くしかない。
そう脳裏で考えつつ、構えを崩さないまま相手の出方を伺っていると、その間合いが僅かに詰められていることに気が付いた。