第2章 瓶詰めの記憶の流れ先※
「・・・・・・」
隣の部屋から気配はしない。
どうやらいつの間にか出掛けたようだ。
それなら都合は良い。
とりあえず近くの公衆電話であの人に連絡を入れようと、重い足をゆっくり進めた。
いつの間にか夜が更け、人通りも殆ど無くなっている。
街灯だけが私を照らし、少しだけ冷たい空気が頬を撫でて。
ふと顔を上げてみるが、空は真っ暗で星1つ無い。
まるで私の心の中を覗いているように感じた、その時。
「・・・!」
とぼとぼと足を進める中、一瞬背中にピリッとした感覚が走った。
背後に・・・気配を感じる。
それは単純な気配ではなく、僅かに殺気に似たような気配だ。
この気配を、私は・・・よく知っている。
「・・・・・・」
歩幅とスピードを変えないよう、注意しながら足を進めて。
足音とその間隔から察するに、男だろうか。
これだけ気配がするということは、恐らく素人。
ただ、ポアロで私を知った人間なら少し厄介だ。
そう考えつつ、ポケットに入れていた時計で時間を確認して。
この時間だと、近くで開いている店はコンビニくらいか。
そこに駆け込んでも良いが・・・それなら。
「・・・っ・・・」
直接聞いた方が早い。
そう思い、自ら路地裏へと入っていった。
予想通り、後ろを歩いていた人間も変わらず私をつけてきて。
間違いなく私をつけていると確認した所で走り出し、その先の角を曲がると足を止め振り返った。
私を追ってきた男は、角を曲がった先で私が止まっていることに驚き、急いで足を止めながら僅かにたじろいだ。
「・・・私に、何か用ですか?」
「いえ、あの・・・っ」
・・・知らない男だ。
帽子を被り、その上からパーカーのフードを被っている。
それにサングラスとマスク。
怪しい人物だと自分から言っているような人間だ。
「女性の1人歩きは危険だと言いたくて・・・」
「・・・貴方みたいな方がいらっしゃるから、ですか?」
煽るように薄ら笑みを浮かべながら尋ねれば、男は少し言葉を詰まらせて。
「もしかして、お客さんですか?」
とりあえず、彼がポアロで私を知ったのかどうかだけ確認しなければ。
そう思い、必要以上の言葉は出さないまま、戸惑う男に尋ねた。