第2章 瓶詰めの記憶の流れ先※
「・・・安室さん」
「何でしょう」
今日は盗聴をしていない。
何かあれば呼べとは言っていたけど。
そんな事はなるべくしたくない。
「どうして安室さんは、私にこだわるんですか?」
少しくらい、自意識過剰な質問をしても構わないだろう。
本当かどうかはさておき、好意を向けていると言ってきたのは、彼なのだから。
「以前、片思いをしていた人に似ていると言っていましたけど・・・だからなんですか?」
それはウェルシュ時代の私のことを指しているのか。
だとすれば、彼の目的は限りなく私だろう。
「・・・それもありますけど」
コーヒーを入れながら、彼はどこか言葉を選んでいるようにも見えて。
少しの間の後、彼は私に視線を向けた。
「純粋に、ひなたさんに一目惚れしたんですよ」
その目は真っ直ぐに、私だけを見つめる目をしていて。
とても嘘をついているようには見えなかった。
そんなはずは無いのに。
「・・・そうやって、何人の女の人を泣かせてき・・・た・・・っ」
笑いながら誤魔化し、やはりこれが彼のテクニックなのかと座っていたイスへと戻ろうとした時、私の体は一瞬で壁へと追いやられていた。
引っ掛けてしまったイスは大きな音を立てて倒れてしまったが、それを気に止めることなく、私に視線を送り続けた。
「・・・っ、安室さ・・・」
「信じていませんよね?」
さっきよりも、僅かに低い声。
その声で、そう耳元で尋ねてきて。
「ッ・・・」
体の力が・・・抜ける。
壁沿いに、ズルズルと座り込むように体を下ろすと、彼も同じようにしゃがみ、私の逃げ道を無くした。
・・・何かを盛られていた訳ではない。
単純に私の力が、抜けてしまっただけで。
「変なことはしないって、言ったじゃないですか・・・っ」
「何もしていませんよ?まだ」
まだ、とは何なのか。
それではこれからすると、宣言しているも同じで。
「警戒は怠らないように、注意はしておきましたし」
そういうのを屁理屈というのだろう、と彼を見上げてみたが。
そこには至ってまじめな雰囲気で私を見つめる、彼の姿しかなかった。