第2章 瓶詰めの記憶の流れ先※
一応、これは彼が最初に作っていたものだったから。
何も混入されていないというのを、他のものよりも間近で見ていた。
それを覚えていた脳が、勝手にこれは一番安全だと判断したのかもしれない。
「!」
・・・が。
口にそれを含んだ瞬間、思わず目を見開いた。
「あ、安室さん・・・」
齧られただし巻き玉子に目を向けながら、左手を口元に添えて。
どうやら彼は、私の何枚も上手をいくようだと、口をわなわなと小さく震わせた。
「美味しいです・・・!」
「ありがとうございます」
味なんてしないと思っていたのに。
まさかこんなにもシンプルな料理で度肝を抜かれるなんて。
その美味しさに感動すら覚えてしまった。
「ひなたさん、甘めな味付けが好きかと思いまして」
眩しいほどの完璧な笑顔を向けられ、その瞬間にようやく我に返った。
何を素直に感想を言っているのか。
例えこれが正しい反応だったとしても。
・・・さっきのは、素を出し過ぎた気がする。
「安室さんも、一緒に食べませんか?」
「では、遠慮なく」
遠慮も何も、と心の中で呟きながら何とか笑顔でやり通した。
・・・完全に彼のペースに飲まれている。
ただでさえ、ここは彼のテリトリーなのだから。
気を抜いては、いけないのに。
ー
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
あれから念の為、彼が手をつけた物以外は口にしないようにして。
所謂、毒味のような形で利用した。
何も入っていないとは思っていたが、この男は気が抜けないから。
「ひなたさん、食後のコーヒーはいかがですか?」
「・・・では、お言葉に甘えて」
個人に出されるものはなるべく断りたい。
けど、なるべく色んな話をして何かを探りたいから。
「あの、コーヒー入れる所、見てても良いですか?」
「いいですけど、別に変わったことはしませんよ」
傍で彼の様子を監視することにした。