第2章 瓶詰めの記憶の流れ先※
『君も可能性がゼロだとは思っていないだろう。それに、仕掛けろとは言っていない』
・・・つまりそれは、男女の営みの・・・ということで。
相手はあのバーボンだからだろうけど。
「・・・向こうから来たら、拒むなということですか」
『いいや。できれば許すな』
相変わらずズルい言い方だ。
できれば、なんて。
こちらから仕掛けないのは、まだバーボンを泳がせる為なのかもしれないが。
だとしても、この人は・・・。
『無理はするな。何かあればすぐに彼らを呼べ』
・・・優し過ぎる。
「・・・分かりました」
端的に終えられた電話はすぐに切られ、私の中にはモヤモヤとした感情だけが残った。
どうすべきかなんて分かってるのに。
怖気付く自分が情けなくて、悔しくて。
決意を固めるように薬を引き出しから取り出して。
眉間に深いシワを刻んでは、作った拳を固くし、下唇を強く噛んだ。
ー
「お待たせしました」
あれから1時間程経った頃。
安室さんはインターホンを鳴らして私を呼びに来た。
それに笑顔で応えると、靴を履いて外へと出て。
どうせすぐに脱ぐことになることにはなるが、動きやすい靴で、というのは私達の鉄則だから。
普段からサンダルなんてものは履けない。
いつもの慣れた靴で隣の安室さんの部屋へと向かうと、1度玄関前で深呼吸をして。
「・・・・・・」
覚悟を、決めた。
「どうぞ」
「・・・お邪魔します」
彼に促され部屋へと足を踏み入れたが。
・・・物が極端に少ない。
私が言えたことではないけれど。
それは越して来たばかりだからという理由なのか、それとも置く必要が無いからという理由なのか。
「すぐに準備しますね」
「あ・・・手伝います」
テーブルに置いてある食材達に目を向けるが、これが2人分なのだろうか。
そう思える程、私には多く見えた。
「すみません、つい買い過ぎました」
つい、という量なのだろうか。
そう思いつつも、彼には笑顔を向けて。
「楽しみにしてます」
そうとだけ伝えた。
きっと味なんてしないのだろう。
ずっと彼が食事に何かを仕込んだりしないよう見張ったり、ボロと緊張感を出さないようにするので、精一杯だから。