第2章 瓶詰めの記憶の流れ先※
「珍しく、手が止まっていたので。具合が悪いのかと」
・・・大して彼と、ポアロで一緒に仕事なんてしたことはないのに。
珍しくとは如何なものかと思った。
まるで、以前の私を知っている、と言われたような気になった。
「いえ、大丈夫ですよ。ちょっと考え事をしてただけです」
「・・・それなら良いですが」
笑顔で当たり障りない返事をすれば、あまり納得はしていなさそうな表情を返された。
別に納得してもらう必要もない。
彼にどう思われても、構わないから。
ー
「すみません。少し買い物をして帰りたいので、先に帰ってもらっていても良いですか?」
その日の仕事終わり、彼は帰り際に突然そう言ってきて。
「それは構いませんけど・・・手伝いますよ?」
本当にそれが買い物なのかどうかも怪しい所ではあるけれど。
一応、そういう風に言うのが“今の私らしい行動”だろうから。
「いえ、大丈夫です。ひなたさんは部屋で待っていてください」
「・・・では、お言葉に甘えて」
無理についていくこともない。
できれば私も、1人の時間が少し欲しい所でもあったから。
「また、頃合を見て呼びに行きます」
「分かりました」
一旦、彼とはそこで別れると、普通通りに家まで帰って。
「・・・・・・」
帰宅と同時に、自分と部屋に盗聴器の類が設置されていないことを確認し終えると、スマホを取り出しメールを打った。
・・・あの人に、これからバーボンと2人で話をすることを。
「!」
するとその数秒後、珍しくメールを送ったその人から、突然電話が掛かってきて。
「はい・・・」
電話が来ることは想定していなかった為、僅かな動揺を残しつつも、とりあえず電話に出た。
『一応、準備はしておけ』
「・・・はい?」
出るなり、あの人は突然そんな事を言ってきて。
準備・・・とは一体。
真っ先に思い当たったのは拳銃だが、2人きりでそんなものを持ち出し、バレた時にはどうすることもできない。
でもそれ以外に思い当たるものが無くて。
即座に聞き直したが。
『具体的な言葉にした方が良いか?』
「・・・ッ!」
聞かなければ良かったと、思ってしまった。