第1章 朝日は終わりを告げた
「今日からお世話になる予定なんですけど・・・マスターから聞いていませんか?」
そういえば、そうだ。
・・・聞いて、いる。
確かに聞いてはいた。
今日から、新しいバイトの人が入ると。
でも名前を聞いていなかった。
それが、私の最大のミスだった。
「聞いてますよ。初めまして、如月ひなたです」
・・・落ち着け。
冷静さを保て。
今はそれ以外、考えるな。
「如月さん、ですか」
どうしてこうなってしまったのか。
どこから間違っていたのか。
・・・少なくとも、マスターから名前を聞いていなかった所からは間違っていた。
でも今更悔やんでも仕方ない。
今はとりあえず・・・。
「安室さん・・・?」
「おや、君は確か毛利さんの所の」
頭の中で今を切り抜ける方法を雑把に探す中、コナンくんが突然、安室透へと話し掛けた。
「知り合いなんですか?」
彼が安室透と名乗っていたのは知っている。
きっと偽名だろうけど。
だからこそ、この男がバーボンであるとも確信した。
他人の空似なんてものではない。
「ええ、実は毛利探偵に弟子入りをしたんです。ここで働きながらだと、色々都合が良いかと思いまして」
これは、マズイ。
この上無く状況が悪い。
・・・どうやら私の潜入は、今日で終わりのようだ。
バーボンに白を切って逃れても、私が生きているとバレれば組織の手からは逃れられない。
それに、コナンくんとも知り合いならば、彼にも危険が及ぶかもしれ、ない・・・。
「・・・?」
そう考え、彼にふと目をやった時だった。
コナンくんの表情が・・・おかしい。
彼もまた、切羽詰まった表情をしている。
・・・でも、彼が何故。
彼のどこに、その表情をする必要がある?
「ひなたさん」
「あ、はい。・・・え?」
呼ばれた反射で返事をしたが、直後に疑問をかんじてしまった。
・・・今、ファーストネームを呼ばれなかっただろうか。