第1章 朝日は終わりを告げた
「ひなたさんってさ、アメリカにいたことある?」
突拍子の無い質問。
流石に、その質問にはヒヤリとした。
でも、表情は崩さない。
そう簡単に、崩されはしない。
食器を拭く手も、止めはしない。
「昔、アメリカに住んでたよ」
人間、嘘はすぐにバレる。
ましてや、探偵と名乗るこの少年には、すぐに。
だからなるべく、嘘はつかない。
「どうしてそんな事聞くの?」
「少し前にアメリカに行ったことあるんだけどね、ひなたさんと似た人に会ったことあるなって思い出して」
・・・これは。
試されているのだろうか。
私はコナンくんにあった覚えなんて全く無い。
それに小学1年生にとっての少し前、とは。
「でも、私がアメリカに住んでたのは随分昔の話だよ」
情報は小出しに。
必要以上には与えない。
それがいつか自分の首を絞めるかもしれないから。
「僕が見たひなたさんに似てる人ね、男の人と歩いてたんだ」
間違いない、試されている。
そして、確かめられている。
・・・私が何者なのか、察しているのだろうか。
「そっかあ。私もそういう人ができたらいいんだけど」
クスクスと困ったように笑ってみせながら、軽くあしらって。
彼がわざわざ、私に直接話を持ちかけてきたという事は、それなりの確信があっての事だろう。
・・・さて、どう話題を変えようか。
そう考えていた、時だった。
「!」
タイミング良く、誰かが扉を開いて。
お客さんが入れば、彼も話を中断せざるを得ない。
もし話を続けたとしても、確信的な事は話せない。
・・・彼は、そういう子だ。
「いらっしゃいま・・・」
都合良く、話題を変えられそうだ。
今日は適当に乗り切って、あとは指示を仰ごう。
私1人で判断は・・・できない。
だから今は、目の前のお客さんに集中しようとした瞬間、心臓はドクンっと大きく脈打った。
「あ、こんにちは。初めまして」
冷静さを保つ事には慣れているはずだった。
でも流石に今回は、そうもいかなくて。
・・・目の前に居たのが。
「安室透です」
あの、バーボンだったから。