第2章 瓶詰めの記憶の流れ先※
「実は彼女に片思い中でして。それ以上の関係になれたら、と思っています」
だから余計なことは言わなくて良い、と今度は沖矢さんへと視線を戻して。
やはり妙なことになってしまった、と頬に汗を流しながら、安室さんと沖矢さんの間で視線を右往左往させた。
「そうでしたか」
安室さんはそう言いながら笑顔を崩さないまま、こちらへとゆっくり近付いてきて。
靴音が確実に近付いてくると同時に、心拍数が上がっていく。
何故私がこんな事に巻き込まれなければならないのかと、この状況を酷く呪った。
「でも、残念ながら」
安室さんは私達の前で立ち止まると、笑顔は崩さないのに目付きだけを鋭くさせ、沖矢さんを睨み付けて。
「彼女は僕の大切な人なので」
そう言い放った彼の目に、曇りは無くて。
思わず、少し目を丸くしてしまった。
「貴方に渡す訳には、いきませんね」
宣戦布告とも取れる言葉と共に、彼は私の腕を引くと沖矢さんから引き剥がして。
咄嗟のことにバランスを崩すと、安室さんがそれを体で受け止めた。
「おや。もしかして昨日の首筋のアレは、彼だったのですか?」
それでもまだ余裕のありそうな空気を纏ったまま、沖矢さんは飄々と昨日の事と安室さんを結びつけて。
「・・・首筋の?」
沖矢さんが何を示したのか、ハッキリとは言わないが、安室さんも勘づいてはいるはずだ。
ただ彼は、何故それを沖矢さんが知っているのかと問いたげな顔で、私に視線を向けたから。
「お、沖矢さん!今日もコーヒーで良いですか・・・!」
早く話題を変えようと、安室さんの体を突き放しながら沖矢さんに慌てて尋ねた。
「ええ、貴女が入れたコーヒーは格別ですからね」
・・・一体、この男の余裕そうな態度は何なのか。
そもそも、何故私に近付くのか。
やはりこの男は、詳しく調べる必要がありそうだ。
そう思いながらカウンター裏へと足を進めた。