第2章 瓶詰めの記憶の流れ先※
「いらっしゃいま、せ・・・」
反射的に体を向けながら挨拶をすると、自然と視線もその方向へ向いていて。
同時に、瞳には少しだけ見覚えのある顔が映された。
「こんにちは、ひなたさん」
「お、沖矢さん・・・!」
爽やかな笑顔でポアロに入店してきたのは、昨日の宣言通りにやって来た彼だった。
「お約束通り、今日も伺わせて頂きました」
「あ、ありがとうございます・・・?」
間違ってはいないはずなのに、お礼を言うところなのか直前で迷いが出てしまい、思わず疑問符を付けてしまった。
そんな私に、沖矢さんは急に距離を縮めては、顔をグッと近付けてきて。
「今日も、お綺麗ですね」
恥ずかしげも無く、そんな台詞を吐いてみせた。
安室さんも似たようなことを口にするが、正直この人は、安室さんよりも苦手意識が働く。
・・・その理由は分からないが。
「お知り合いですか?」
戸惑いのせいで引きつった笑顔になっていると、調理の手を止めた安室さんが、カウンター側から声を掛けてきて。
肩をピクリと跳ねさせながら彼へと目を向けると、そこにはいつもとは僅かに雰囲気の違う彼の姿があった。
「・・・っ」
バーボン。
・・・いや、違う。
でも安室透ではない。
そこには、私の知らない誰かが居るようだった。
「え・・・えっと・・・」
何と言えば良いだろう。
コナンくんや、阿笠博士のこともある。
こちらも調べが足りない為、無闇に沖矢さんの居場所や素性を言うのは、避けた方が良いかもしれない。
本能的に、そう思い口篭っていると。
「友人です」
沖矢さんは簡潔に、私との関係をそう示した。
友人という関係になったつもりはないが、変なことを言われるよりはマシか、と上がっていた肩を下げた瞬間。
「今のところは、ですがね」
その肩に、背後から沖矢さんの両手が乗って。
ビクッと震えると、彼は私の顔を覗き込むようにし、ニコッと何を考えているのか分からない笑みを向けてきた。
「・・・今のところ、とは?」
そこは掘り下げなくていい、と安室さんに顔を向けるが、未だ私の知らない表情をする彼に、言葉は喉の奥で詰まってしまった。