第2章 瓶詰めの記憶の流れ先※
「逆に聞きますが、好きな女性にアピールする事は、ダメなことですか?」
覗き込むようにして尋ねてきた彼の距離の近さに、思わず一歩引いてしまった。
ああ・・・思考がおかしくなる。
頼むから、こういうことを簡単に言わないで欲しい。
誰だろうと構わず、言っているくせに。
「・・・分かりました。お邪魔しても良いですか?」
「ええ、勿論」
流石に2人きりになれば、何か言ってくるかもしれない。
あの人にもあとで、一応連絡を入れておこう。
「何か好きな食べ物はありますか?反対に嫌いな物とか、苦手な物とか」
「いえ、特には・・・」
死なないものであれば、何だって良い。
どうせこの男と2人きりで食事をしたって、味なんてしないだろうから。
「では、僕のおまかせということで」
・・・よくそんな楽しそうな顔ができるものだ。
私も一応、笑顔を返して見せるけれど。
それが貼り付いたものだと、見なくても分かる。
楽しくもないのに、彼のように上手くなんて・・・笑えない。
ーーー
「落ち着きましたね。遅くなりましたけど、お昼にしましょうか」
平日のランチ。
常連さんで溢れた忙しい時間を乗り越え、15時が来ようかという所。
一通りの作業を終え、そう安室さんに声を掛ければ、余った食材で何かを作ると言ってくれて。
「夜もですよね・・・?お昼くらい、私が準備しますよ」
「いえ、僕の作ったものを食べてほしいんです」
一般人であれば、胸の1つや2つをときめかせるのだろうけど。
この男が言うと、何か仕込んだものを食べさせたいと言っているように聞こえてしまう。
「じゃあ・・・お言葉に甘えて」
ここでは流石の彼も、下手な事はしないだろう。
こちらも多少、隙を見せていた方が立ち回りが楽になるかもしれない。
そう思い、彼の言葉に従うことにした。
安室さんが賄いを作る間、仕上げのテーブル拭きでもしていようと、カウンターから出て。
「!」
料理の腕は確かに良い事を思い出しながら、テーブルに布巾を置いた瞬間。
ドアベルが音を立てて来客を知らせた。