第2章 瓶詰めの記憶の流れ先※
「これで悩んでいた、とかでは?」
「・・・違います」
この場合、そうだと言えば良かったのだろうか。
その方が後々楽だったかもしれないけど。
それを認めるのは、どこか癪に障ったから。
「こういうの、本当にダメですよ・・・誤解されると困りますから」
「想い人に、ですか?」
・・・そういえば、そんな誤魔化しもしたな。
「そ、そうです」
もう面倒だから、そういう事にしておこう。
どうせこの男の会話に意味なんてないのだから。
一応今日も痕が隠れる服を着て来ているが、油断は禁物だ。
今日はその存在を忘れないよう、服の上から首筋に手を這わせては、細く長い息を吐いた。
そんな時に彼は。
「そうだ、ひなたさん。今夜僕の部屋に来ませんか?」
「・・・え?」
つい先程、想い人がどうだと言っていたのに。
彼は突拍子も無くそんなことを提案してきて。
人間、驚きが一定の度合いを超えると、間抜けな声しか出ないのだろうか。
少なくとも今の私は、そうらしい。
「それは・・・」
本音は断りたい。
けれど、彼に探りを入れるのであれば、それなりのチャンスとも取れる。
「手料理、ごちそうしますので」
釣られる要素にはなっていないが、そういう理由でもなければ招くことはできないか。
ただ、一度あの人に相談をしたい。
けれどそんな時間が無いのも事実だ。
「変なことはしません。もし不安であれば、防犯ブザーを持った上、110の通報画面を開いたままのスマホを机の上に置いていても結構ですよ」
・・・それは一体どんな状況での食事なのか。
そう言いたい気持ちはグッと押さえ込んで。
「そんな事はしませんけど・・・」
あまりにも積極的に動く彼に、やはり裏を感じてしまう。
そんなに事を急ぐ任務でも、任されているのだろうか。
様子を伺うように彼を見れば、変わらず完璧な笑顔を私に向けられた。
「・・・どうして、そこまでするんですか?」
思わず、聞いてしまった。
今は人通りもない。
私をウェルシュだとして近付いたのなら・・・隠す必要は無いだろう、と言ったつもりでもあったけれど。
「単純に、もてなしたいんです」
しらばっくれたのか。
それとも本心なのか。
いずれにせよ、自分がバーボンであるとは明言しないようで。