第2章 瓶詰めの記憶の流れ先※
「おはようございます」
「!」
ドアを開いた瞬間、声を掛けられた隣へ目を向けると、鍵を掛けようとしている安室さんの姿があった。
「安室さん・・・おはようございます」
彼もポアロへ向かう所か。
そう思いつつ、彼の気配の感じ無さに、自分の不注意さを思い知って。
「どうかされたんですか?」
一足先に鍵を掛けた安室さんは、鍵穴に鍵を差し込む私に、突然そう尋ねてきて。
「何がですか・・・?」
彼にそんな事を問われるような覚えが無いと、首を傾げた。
あくまでも人当たりは良い、如月ひなたとして。
「少し、元気が無いように見えましたので」
・・・これも彼なりの手口なのだろうか。
別に、安室透である彼に指摘されることは問題では無いけれど。
「そう・・・ですか?」
隙を見せてしまったかもしれない、という点では、良くない。
それはこの男に限った話ではないが。
「お店では気を付けなきゃいけませんね」
こんな事で寝不足になって、仕事に影響が出てはいけない。
ましてや今日は、この男と仕事なのだから。
「・・・ひなたさん」
「はい?」
鍵を掛け終え、2人で歩き始めるなり、安室さんから徐ろに名前を呼ばれて。
まだ何か言い足りないのか、と横目を向ければ、彼はチラリとこちらに視線を向けながら口角を緩やかに上げた。
「ちょっと、失礼します」
「・・・!」
そう言って私の首元に手を伸ばすと、徐ろに襟をクッと下げられて。
突然の事に思わず手を払い距離を取るが、その行動は如月ひなたらしく無かったと、我に返った。
「す、すみませ・・・」
「いえ、僕こそ突然触れてしまいすみません」
これも、私のペースを乱す為の何かなのだろうか。
・・・やはりこの男は何を考えているのか、分からない。
分かりたいとも思わないが。
「痕、どうなっているか気になりまして」
痕・・・あぁ、あの痕か。
さっきの彼の行動の方が驚き過ぎて、その言葉は意外と冷静に受け入れてしまった。