第2章 瓶詰めの記憶の流れ先※
「う、うん・・・平気。世良の姉ちゃんはすごく怒られてたみたいだけど」
それはそうだろうなと苦笑しては、飲み終えた沖矢さんのコーヒーカップへカウンター越しに手を伸ばし掛けた時。
「!」
何故か沖矢さんに、その手を掴まれてしまった。
「お・・・沖矢さ・・・」
どうしたのか。
そう尋ねる間も無く。
手の平を上にされると、彼は1枚の紙を私に握らせた。
「僕の連絡先です。よろしければ、お友達からでも」
「・・・・・・」
コーヒーカップを掴み損ねた手は、代わりに彼の連絡先を書いたメモ用紙を持って戻ってきて。
「・・・すみません、お客様からこういうものを受け取る訳には・・・」
「では、僕に興味を持って頂けるように毎日通うことにします」
安室さんといい、彼といい、一体最近どうしたのか。
普段から非日常的ではあるが、いつもと違うそれに、思わず顔へ困惑が滲み出てしまった。
「また明日来ます」
「あ、待って!昴さん!」
お代をきっちりカウンター上に残し、彼は颯爽と姿を消した。
それを追い掛けて、コナンくんも居なくなってしまって。
「・・・・・・」
・・・また明日来る、と言っていたけれど。
明日は安室さんと仕事だ。
妙な事にならなければ良いが。
休んでしまいたい気持ちを何とか押し殺し、握らされた紙切れを拳の中に包むと、ズボッと無造作にポケットの中へ押し込んだ。
ーーー
次の日。
「・・・はぁ」
昨日の沖矢昴という人物のことを、あの人に報告するかどうか迷いながら、朝を迎えて。
迷うくらいなら、いっそ言ってしまおうかとも思ったが、言った所でまだ何もされていない。
結局、連絡先のメモも一応見はしたが、そのまま燃やしてしまった。
悶々と悩み過ぎては、ため息ばかりが出てくる。
瞬きをした瞬間に朝になったような、お粗末な睡眠しか取れなかったまま、ポアロへ出勤しようと玄関のドアを開けた。