第1章 朝日は終わりを告げた
それから約2年半後。
私はとある喫茶店で仕事を始めた。
ウェルシュとしての私はもういない。
如月ひなたとして、比較的静かに生きていた。
それは、とある人からの命令。
目的はこの喫茶店の2階にある探偵事務所。
そこに住んでいる少年の監視。
でも、特別尾行をしたりする訳でもない。
ただ静かに、彼を見守るだけ。
最初は、彼が何か私達に不都合な動きをしているのかと思ったが・・・どうやらそれは違うようで。
この数ヶ月、少年を見ていて感じた違和感はある。
私にこれを指示した人物もまた、同じ違和感を感じたのだろう。
だから、何かがあれば少年の様子を見る。
必要であれば、傍についていく。
あくまでも、それとなく。
1階の喫茶店に勤めている、ただの店員として。
「こんにちはー」
「いらっしゃい、コナンくん」
とある日の午後、少年はいつものようにここへとやってきた。
今日まで潜入を続けてきたが、この潜入に終わりは見えていなくて。
何が目的なのか、何が理由なのか、何も聞かされないまま、私はここで働く他なかった。
「あれ、今日は1人なの?」
「うん。梓さんはお休み」
この喫茶店・・・ポアロでの仕事も慣れてきたが、それは特別必要な事ではない。
私としては、ここで働く事を指示したあの人の役に立ちたかった。
こんな所で・・・数ヶ月も燻っていたくはなかったのに。
・・・所謂、厄介払いされたのだろうか。
「じゃあ、丁度良かった。ひなたさんに聞きたいことがあったんだ」
いつものアイスコーヒーを差し出すと、コナンくんは突然そんな事を言い始めた。
「私に?」
いつもの、事件の話だろうか。
彼はよく巻き込まれているから。
それは彼が事件を呼んでいるのか、それとも事件に呼ばれているのか。
私が違和感を感じるようになったのは、それらの事件が切っ掛けだった。