第2章 瓶詰めの記憶の流れ先※
「な・・・」
これは・・・からかわれているのだろうか。
安室さんといい、目の前の彼といい、最近ここには変わった人しか来ない。
「でも、恋人がいるのでは仕方がありませんね」
「ち、違います・・・!これは・・・」
落ち着いた様子の彼に慌てて両手を振りながら否定をしてみせるが、ふと我に返った。
何を弁明しようとしているのか、と。
「これは?」
そうです、と言ってしまっておけば良いのに。
別に彼には関係のない事だ。
・・・なのに、それを認めてしまうのは、嘘でも嫌だった。
「つ、付けられてしまったんです・・・」
「どなたに?」
それがバーボンだったからなのかは、分からない。
けど、あの男に恋人として付けられたとは思われたくなかったから。
「・・・・・・」
でもそれをはっきり言うのも変だと思って。
言葉に詰まり、口ごもってしまった。
「誰かに言い寄られているのですか?」
「えっと・・・」
違わない。
違わない、けど。
彼のあれはきっと、本気ではなくて。
「同意無しで女性に傷をつけるとは、許せませんね」
「でもこれは、事故みたいなものなので・・・」
そう、事故だ。
そう思っていた方が、幾分か気分がマシだ。
「事故でキスマークがつくとは思えませんが」
それは言い返せない。
でも認めたくないことを、無理に認めてもらおうとも思わない。
だからそれには言い返さなかった。
「その方の事が好きなんですか?」
「ないです!違います!」
つい、不自然な程に強く否定してしまった。
初めてポアロでこんなに取り乱し、大声を出してしまったせいか、再び我に返るのも早かった。
「すみません、貴女のお名前を伺っても?」
「え・・・」
突然何故、と数秒硬直すれば、目の前の男性はコーヒーを1口飲み込んで。
返事は無いが、柔らかな笑顔だけを向けられた。
「如月、です・・・」
不思議な人だ。
何故か自然と、言葉が引き出されていく。
「もしよろしければ、ファーストネームを」
・・・最近の日本の男性は、皆こうなのだろうか。
この国の人は、意外と心の距離は保つ方なのだと思っていたけど。