第2章 瓶詰めの記憶の流れ先※
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「・・・・・・」
結局、あれから殆ど眠れなかった。
数時間しかなかった睡眠時間も、活かすことはできなくて。
とりあえず覚めない目を早く開ける為に顔を洗おう。
そう思いながら洗面台の前に立ち、鏡でクマの酷い顔を確認した時、遅過ぎる気付きをしてしまった。
「・・・!?」
鎖骨の少し上辺り。
そこに赤い痕が、くっきりと残されていて。
「っ・・・」
心当たりはある。
寧ろ心当たりしかない。
数時間前、玄関であの男に・・・バーボンに付けられた痕だ。
あの時感じたチクリとした痛みは、これを付けられている時の痛みだったのか。
「・・・・・・」
暫く消えそうに無いことにため息をつきながら、なんとか隠れる服を引っ張り出してきて。
油断し切っていた自分にため息しか出ない。
・・・これはあの人に報告すべきだろうか。
「・・・・・・」
いや、した所でどうなる。
これはただの失態だ。
そっと指先を鎖骨に触れさせては、動揺と後悔と情けなさでぐちゃぐちゃになった感情を、ため息で吐き出した。
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「梓さん、そろそろ時間ですよね?私やっておきますから、もう大丈夫ですよ」
「良いんですか?じゃあ、お言葉に甘えて・・・」
その日のポアロも、比較的落ち着いた様子で。
15時が来ようとする頃、一緒に働いていた梓さんに声を掛けた。
「楽しんできてくださいね」
「ありがとうございます!」
ぱたぱたと帰り支度をする梓さんに笑顔を向ければ、彼女も満面の笑みを返してくれて。
夕方から久しぶりに会う友人達と約束があるのだと、嬉しそうに話していた彼女を思い出しては、小さく笑いが零れた。
羨ましい。
私にも仕事仲間はいるけれど。
友人と呼べる人は少ない。
作ることも、なかなか難しい。
・・・ましてや恋人なんて。
私の仕事には少し不向きだ。