第13章 ノーカウントの数え方※

「･･･本当に、嫌だったら殴ってください」

念押しする彼の目は本気でそう言っていて。
私が殴らない事は、彼も理解していると思うのだが。

「意外と、心配性なんですね」

そうなる原因が自分の過去だという事は分かっている。
それを気にしないでほしいという我儘もある。

でもきっと、彼の不安を完全に拭うことはできないのだろうな。

「知りませんでした？」
「･･･っ」

腹部に添えられていた指が、ゆっくりと上がってくる。
思わず閉じてしまった瞼に、昴さんとの特訓なんて何の意味も無かったことを感じて。

「ひなた」

甘すぎる声色が、体に沁み込んでいく。

視界からの情報は流石に遮断しない方が良いと頭では理解しているが、どうにも瞼が上がらない。

「ッ･･･」

上がっていたかと思うと引き返し、背中に回ったかと思うと再び腹部に戻ってきて。

体を確認するように、彼の体温をそこだけで共有した。

「･･･ひなた」
「ん･･･っ！」

囁くように吐息混じりに耳元で呼ばれた名前に、体がビクッと反応して。

それと同時に漏れた自分の声に驚き、固く閉じていた瞼が簡単に開くと、慌てて口に手で蓋をした。

流石に聞き逃してはくれなかったか、と確かめるように彼に視線を向けるが、その少し意地悪そうな笑みが全てを物語っていた。

「我慢、してしまうのですか？」

「するな」でも、「できるのか」でもない。
させるつもりがない。

それが少々癪に障るが。

「･･･あまり、出したことが無いので分かりません」

素直と言えばそう。
煽った、というのも正解だったかもしれない。

「出したことはあるんですね」

その綺麗な顔に隠れた余裕を、剥がしてみたくて。

「･･･それくらいは、ありますよ」

嘘ではない、と視線をそっと外しながらそう答えた。