第13章 ノーカウントの数え方※
「耳はダメです・・・っ」
蓋はしたまま、少し強めの口調で言うと、彼は数秒私を見つめた後、真剣な表情から少しの笑みをチラつかせて。
「それは、本気の拒否ですか?」
「ッ・・・」
・・・そうだ、と答えたら、彼はきっとこれ以上はしないだろう。
公安として、そこはきっちりとしていると直観で分かる。
けど、本気で拒んでいるかと問われると。
「わ、分かりません・・・」
自分でも・・・分からない。
情けなくも、自分の感情も感覚も、それが自分にとってどうなのか、全ては理解できていない。
「・・・では、こうしましょう」
動揺にも似た感情に揺らされる私を見て、彼は一つの提案を出した。
「本当に嫌な時は、僕をバーボンと呼んでください」
私にとっては、逆効果なのではと思う提案を。
「バーボンは、誰も抱きませんから」
・・・彼はそう言うが。
「・・・うそつき」
それが真実でない事は理解している。
以前も似たように言ってきたが、到底信じられるものではない。
・・・はずなのに。
「本当ですよ」
彼のこの目が、私を信じさせようとしてくる。
それが彼のやり方なのかも分からない。
分からないからこそ・・・苦しくなる。
「・・・・・・」
彼が、好きだ。
それは間違いない。
でも好きだからと言って、全てを信じていいのか。
・・・分からない。
「ひなた」
徐ろに呼ばれた敬称の無い名前に別の苦しさを感じながら、視線で返事をすると。
「口、開けてください」
「・・・?」
そう指示をされた。
口?と小さく首を傾げるが。
「大丈夫」
彼は優しい笑顔と、短いその言葉しか返さなくて。
何故なのかと疑問は残したまま、おずおずと小さく口を開けた。
「・・・!?」
その瞬間、私の口を蓋するように彼の唇が重ねられて。
開けた口の隙間から、するっと暖かい感覚が滑り込んできた。
「んっ、んぅ・・・ッ!」
彼の・・・舌が・・・口内を乱すように、舌先が這っていく。
ゾクゾクと体がおかしくなる感覚に、小さく痙攣が起きて。
思考回路も次第に機能しなくなる感覚を体が覚えていった。