第13章 ノーカウントの数え方※
「どうしようもないくらいに」
「・・・・・・」
さっきまでの表情と、変わらないはずなのに。
何故か・・・少しだけ。
悲しそうに見えるのは、気のせいだろうか。
「・・・ッ!!」
彼の感情を読み取ろうと目を見つめていると、腹部に異変を感じた。
その瞬間、体全体がビクッと跳ね上がり、同時に全身が硬直した。
彼の目から視線は外していない。
感覚だけで状況を理解しているが、驚くほどハッキリと、直接見ているかのように分かった。
「・・・止めるなら、今のうちです」
彼の手が・・・服の下へと潜り込み、腹部に指を添わされている。
自分の体温ではない熱が触れる感覚に、恐怖が無かったと言えば嘘になる。
少なからず、怖いという感情はあった・・・が。
「途中でも、殴ってもらえば止めます」
彼が無理やり何かをするとは思えなかったから。
この人なら、大丈夫だと思えたから。
「・・・い、言いましたよ・・・好きな人に、そんな事はしないと・・・」
そっと彼の目から視線を外し、彼の服を掴む手に力を込めた。
これは・・・FBIとしての行動ではない。
そのことに気が付いていながら、良いのかは答えが出なかった。
自分の気持ちを優先させた行動に、罪悪感はあったが。
「そうでしたね」
「っ・・・」
彼が触れた場所が増える度、FBIとしての自分が壊されていくようで。
ただの、私となっていくようで。
「・・・ひなた」
「!」
いつの間にか耳元に近付けられた彼の口から、吐息混じりに不意に呼ばれた名前に大きく体と心臓が反応した。
くすぐったくもあり、体が何かに蝕まれるような感覚に、慌てて手で蓋をし、彼を小さく睨んで。
「耳は・・・っ」
弱いことを知っているのに、と利かせた睨みだったのに。
「ダメと言われると、したくなるのですが」
・・・どうやら確信犯だったようだ。