第2章 瓶詰めの記憶の流れ先※
「再度確認ですが、恋人はいないんですよね?」
「・・・いませんけど、安室さんとそういう関係を持つつもりはありませんよ?」
もう少しで家に着く。
そんな所で、彼は以前にもした質問を何故か再びしてきて。
「でもその気になれば、分かりませんよね」
その気も何も。
少なくとも、この隣にいる男とは有り得ない関係だとは思うが。
「残念ですが、なりませんよ」
一応、冗談のように笑って言ってみるけれど。
これが彼にどう伝わるのかは、残念ながら検討がつかない。
「思いを寄せる人でも?」
・・・そういう形で私に近付くつもりなら、とことん無視をするつもりではあるが。
あまりしつこ過ぎるのも考えものだと思って。
「まあ、そんな所です」
嘘でも本当でも無いことを口にした。
「どんな人か聞いても良いですか?」
興味津々といった様子で私に顔を寄せ問い詰めてくるが、それが単純なる興味からなのか、それとも何か探る為の彼なりの秘策なのか。
横目で彼の笑顔を視界に入れては、小さく短いため息を吐いて。
「・・・知的で、冷静で、でもきちんと私を叱ってくれる・・・とても尊敬できる人です」
今となっては、そういう人だった、と言うべきなのだろうか。
・・・だって、彼はもう。
「そう、ですか」
歯切れの悪い返事をする彼に視線を向けるが、そこには目を伏せ何かを考えるような彼の表情が目に映った。
・・・組織にいた頃も、何度かこういう表情を見た気がする。
その表情が意味することまでは、やはり私では分からないけれど。
ーーー
「では、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
玄関前で互いに、朝日が登りかけた時間には少しズレた挨拶をしながら、鍵穴に鍵を差し込んで。
ようやく終わる。
そう思いながらドアを開け、部屋へと入り、そのドアを閉めかけた時だった。