第2章 瓶詰めの記憶の流れ先※
「・・・安室さん、一つ聞いてもいいですか?」
「はい、何でもどうぞ」
彼があれこれ私のことを聞いてくるから。
つい踏み込んだことを聞きたくなってしまった。
彼が気になったからではなく、あくまでも彼を探る為に。
「どうしてポアロで働き始めたんですか?」
誤魔化される。
そう思っていた。
でも彼は、私の質問に突然足を止めて。
僅かに入っていた彼の姿が視界から消えたのを目で追うように、振り向きながら私も足を止めた。
「ひなたさんに会いに来た・・・と言ったら、僕を嫌いますか?」
「・・・・・・」
至って真面目。
しかし、笑顔は崩れていない。
それは営業的なものなのか、それとも自然なものなのか。
それによって、彼の言葉の意味は変わってくる。
「嫌いには・・・なりませんよ」
こういう時、あの人なら何と返せと言うだろう。
目の前の彼なら、何と返し、何と返して欲しいのだろう。
私にはこんな当たり障りの無い、ありふれた事しか言えないけど。
「でも、会いに来たってどういう事ですか?」
以前から知ってはいるけれど。
今の私達は、ついこの間出会ったばかりだ。
やはり目的は私なのか。
ここで彼がバーボンだと明かせば、こう取り繕わなくても良いのに。
「・・・僕のことは、記憶から消してしまいましたか?」
回りくどい。
思わずそんな感情が、表情に滲み出そうで。
・・・それなのに彼は。
「以前どこかでお会いしましたっけ・・・?」
そう笑顔で尋ね返すと、何故か彼の笑顔は少しだけ寂しげなものになった。
「・・・いえ。会っていれば良いなと、思っただけです」
けれど、その寂しげな笑顔は一瞬で元の笑顔へと戻り、止めていた足も歩みを進めて。
この男が何を考え、どうしたいのか。
踏み込んだ質問をしたつもりが、余計に分からなくなってしまった。