第13章 ノーカウントの数え方※
「ほんと・・・よく組織に潜入できてましたね」
それは自分でも思うことだが。
彼の声色と言い方が少し組織にいたあの頃に戻ったような感覚を引き起こさせ、あからさまに不機嫌な表情で返してやった。
「・・・貶してます?」
そのつもりがないことは分かっている。
彼は元よりそういう人間だ。
「いいえ」
だからその真意を問いたくて、聞いてみたのだが。
「染まらなくてよかったと・・・安心しています」
彼は私が思う以上に心配性で、脆くて。
・・・優しすぎるのかもしれない。
でなければこんなに優しい笑顔、できるはずがない。
「・・・!」
彼のそんな笑顔に惹きつけられていると、徐ろに再び頬へ彼の手が伸ばされた。
ただ今度は触れるだけでなく、ゆっくりと頬を包むように添わされて。
「っ・・・」
その指は耳元に届き、ゆっくりと確かめるように這わされると、妙な感覚に体が小さく反応し、瞼は反射的に閉じてしまった。
「・・・先ほど、怖がらせたばかりなのにすみません。嫌なら突き飛ばしてください」
・・・鈍い私でも分かる。
この後、どうなるのか。
存外、その時が来れば覚悟なんて殆どいらない事を初めて知った。
「・・・好きな人に、そんなことしませんよ」
閉じた瞼は半分開いたが、視線は落とした状態で合わせる事ができないまま、彼の服を掴みながらそう答えた。
私の気持ちは、届いているだろうか。
彼に、私はどう映っているのか分からないが、気持ちが嘘ではない事は・・・伝わってほしい。
そう伝えるように彼の目を見れば、あまりにも綺麗なそれに吸い込まれそうになって。
彼の顔が近付いてくるのを感じ取り、再びゆっくり瞼は閉じられて。
その数秒後、唇に柔らかい感触とお互いの熱が混ざり合う感覚に、体が浮いてしまうような不思議な気持ちを味わった。