第11章 昨日と明日と明後日と
―――
「ふー・・・」
あの後、暫く今後の身の振り方を相談したが、もう少しの現状把握が必要だと判断し、一旦解散となって。
私は捜査員の全員を工藤邸で見送り、赤井さんと2人になった。
「ひなた」
私もこれから部屋に戻り、銃の手入れをしておきたいが。
あの騒ぎがあったばかりであの部屋に戻るのもどうかと考えていると、赤井さんが背後から私を呼んで。
「は、い・・・」
振り向きながら返事をしかけた時、その顔を赤井さんの両手で掴まれた。
「!?」
突然の事で理解が追い付かずにいるが、赤井さんが私の顔を掴み、彼の顔が目の前にあるという事実だけは把握ができた。
「あ、赤井さん・・・?」
ただ、把握と理解ができているのはそこまでで。
彼が何をしているのかは分からず、彼の手に自身の手を重ねた。
「車で体を打っていただろう。怪我はないのか」
「!」
・・・ああ、その確認か。
確かに体は打ち付けたが、大したことはない。
「だ、大丈夫です・・・」
見た目にも、派手な傷はできていないはずだけど。
そんなにも不安を与えるような、情けない声を出してしまっていただろうかと、少し反省をした。
「・・・?」
ただ、大丈夫と答えた後も、彼は私の顔から両手を離そうとしなくて。
何故か見つめられたまま、数秒間が過ぎた。
「あかい・・・さ・・・」
まだ何か不安なことがあるだろうか、と名前を呼びかけた時だった。
「沖矢昴は名前で呼ぶのに、俺のことは呼ばないんだな」
「!」
珍しく、どこか不服そうな表情でそう言った。
まるで赤井さんではない・・・そう、沖矢昴と話しているようだった。
「呼べませんよ・・・」
私なんかがおこがましい。
過去があったジョディのように、私はあくまでも一緒に働く捜査員で。
それ以上に、彼は私の恩人で・・・尊敬する上司のような人で・・・。
「命令だと言ったら?」
その人の命令に背く・・・ことは・・・。
「っ・・・」
できないはずなのに。
なぜだろう。
こんな時に。
こんな時だからなのか。
脳裏に・・・透さんの顔が浮かんで。
そのせいで、言葉が詰まってしまった。