第2章 瓶詰めの記憶の流れ先※
「ホォー?クラッカーボール、ですか」
「・・・・・・」
食いつく場所はそこなのかと、前方に向けていた視線を彼に向ければ、何故か意地悪くも楽しそうな笑みが溢れていた。
「ひなたさん、国外に住んでいらっしゃったんですか?」
・・・余裕そうな声色。
だからあの表情なのか。
「どうしてですか?」
「日本でもクラッカーボールと言うことはありますが、多くは癇癪玉と言うんです。爆竹なんて言う人もいますが、導火線がついているものを指すのであれは間違いですね」
長々と説明する口調は変わっていないな。
僅かな隙間から崩そうとしているのだとしても、分かりきった事実を白々しく問われると、それなりに癪に障る。
・・・表情には、出さないが。
「だから、そうなのかと思いまして」
組織にいた頃、バーボンとそんな話はした事がなかった。
そもそも、互いの素性を探りあえるような立場でもなかったから。
・・・知りたいとも、思わなかった。
「少しだけ、住んでいたことがありますよ」
そこまで知りたいなら、とことん探ってみるがいい。
そう心の中だけで、挑発して。
・・・もうある程度は探り済みなのかもしれないが。
「どちらに?」
「アメリカです」
正直、良い思い出というのは無いに等しい時期だったが。
「留学ですか?」
「まあ、そんな感じです」
あの時の辛かった日々を思い出しては、今の平和ボケしそうな日々の思い出で蓋をした。
「でも正直、クラッカーボールと言っただけで国外に住んでいたという推理は、少し杜撰(ずさん)ではないですか?」
「おや、手厳しい」
確信があって尋ねたのか。
確証を得たくて尋ねたのか。
・・・アメリカで私の事を探るつもりだろうか。
「毛利さんの元で、精進します」
余裕そうに笑う彼を横目に、ため息を押し殺して。
あの人は、この男から何か情報が得られるかもしれないと言っていたが・・・バーボンにそんな隙があるだろうか。