第13章 ノーカウントの数え方※
「善は急げです」
飲み終えたカップを置き、徐に立ち上がった昴さんは、同時に紅茶のトレーを持ちあげて。
「呼んできますね」
「!?」
テーブルには私の分の紅茶が入ったカップのみ。
一度それを見て冷静になり、一瞬で思考回路をフル回転させ、部屋の窓へと走った。
そこから外の景色を確認すると、工藤邸の門の前に見覚えのある白いスポーツカーが止まっていて。
その瞬間に、私がこの家で一度も窓の外の景色に目をやっていなかったことに気が付いた。
・・・いつも窓際には、赤井さんがいたから。
気付かせない為だったのか、はたまた。
「!」
暫くして、沖矢さんが門の方へと向かっていく姿が見え、私の中の動揺と焦りは最高潮に達した。
「・・・っ」
どうしよう。
透さんがここに来れば、逃げ場はない。
どうにかしなくては、と部屋の中を意味も無く右往左往するが。
・・・そもそも
逃げるという選択肢しかない事にふと疑問を持った。
何故、逃げる必要があるのか。
何も悪いことなんてしていない。
・・・でも、ただただ会うのが・・・怖い。
「!」
そうこうしている内に、2人分の足音が部屋に近付いている。
・・・それに気が付いた瞬間だった。
「ッ・・・!!」
あの夜の・・・私に忌々しいトラウマを植え付けたあの日の夜の出来事が、ふと頭を過って。
部屋の明るさだけが私をどうにか正気を保たせたが、体の震えはどうすることもできず、部屋の隅へと走ると、うずくまり両手で体を抱えてそれを抑え込もうとした。
「・・・ひなたさん」
数回のノックと共にドア越しに聞こえてきた、透さんの声。
それは少し懐かしくも感じて。
さっきまで彼の足音に恐怖を感じていたはずなのに。
彼に会うのが怖いと思っていたはずなのに。
その声を聴いた途端、不思議と体の震えが徐々に治まりをみせていった。