第13章 ノーカウントの数え方※
「いくぞ」
「あ・・・、運転変わります・・・っ」
その手で運転はできなくはないだろうが、酷くなってはいけない。
せめて運転くらいは、とシートベルトを外しかけたが、再び手を止められてしまった。
「悪いが、今は運転したい気分だ」
「そう・・・ですか・・・」
赤井さんにそう言われてしまえば、こちらは何も言えない。
動かしかけた手を元に戻すと、彼は納得したように車のエンジンを掛け、帰路についた。
「そういえば」
車が走り出して数分後、赤井さんは徐に話を切り出して。
「暫くあの喫茶店に出入りは無理だろう」
「あ・・・」
・・・確かに、この顔で店に出るのは少し気が引ける。
何より、透さんに見られるのが・・・嫌だった。
「傷が治るまで、工藤邸にいろ」
「・・・・・・」
治る、という線引きが難しい傷だが、今はそうした方が良いだろうな。
また何もできない生活になるのか、と何度目かの落ち込みを感じていると。
「安室君に会いたいのか?」
「違います!」
赤井さんの唐突な質問に、思わず即座に反応してしまった。
あまりにも早すぎたそれは、逆に肯定しているようにも見えてしまって。
私の反応に笑みを浮かべた赤井さんの横顔が酷く私に羞恥心を覚えさせ、顔が熱くなっていくのを感じ、そっと顔を逸らした。
「・・・・・・」
・・・本当に会いたいとは思っていないのに、と瞼を閉じて天を仰ぎ、手の甲で顔の熱を奪っていると、珍しく赤井さんから小さなため息が聞こえた気がして。
「俺も安室君には会って言いたいことがある」
「?」
ふと視線を向けた瞬間、彼はさっきの笑顔とは裏腹な表情を見せていて。
街灯の下を潜る度照らされるそれが、少し怒りを含んでいるように見せた。
「少々、文句をな」
文句?赤井さんが?
「観覧車で何かあったんですか」
珍しい返事に、思わず少し前のめりになって。
私があの場を去った後に何かあったのかと思ったが。
「・・・いいや」
赤井さんはそれ以上、このことについては触れなかった。