第12章 LikeはLoveか、別物か
包帯の具合を確かめるように、赤井さんは右手を何度か握ったり開いたりを繰り返して。
それを横目に消毒液と包帯をポーチにしまおうとしていると、赤井さんは私のその手を掴んで止めた。
「次は君の番だ」
目を丸くしていると、彼はそう言って私のポーチを取り上げた。
「わ、私のは本当にかすり傷なので大丈夫です」
その必要は無いと取り上げられたポーチに手を伸ばそうとするが、その隙間を縫って赤井さんの右手が私の頬に触れた。
「ッ・・・!」
丁度痛む部分をピンポイントで刺激したのは、きっとワザとで。
痛みで僅かに歪んだ表情を見て赤井さんは、必要だろう?とでも言うように、軽く首を傾げてみせた。
「女性の顔に傷がついて大丈夫な訳がないだろう」
・・・意外と赤井さんはそういう事を気にする。
実際、私は赤井さんに顔へ傷をつけられたことは無い。
それだけ、手加減されているという事でもあるのだが。
「・・・宣戦布告がぬる過ぎたようだな」
「?」
観念して赤井さんがポーチから消毒液等を取り出しているのを見ていると、ポツリとそう呟く声が静かな車内で聞こえた気がした。
「・・・・・・」
戦線布告・・・と言う言葉と繋がるのは透さんだが、彼に?
であれば、観覧車の中で透さんの目の前でそうしたのは赤井さんの言う宣戦布告だったのだろうか。
・・・何のために?
そもそも、あの時すぐに私が立ち去れば、2人でいる所を見られることも無かったのに。
何故私を引き留め、誤解されるような場面を透さんに見せたのか。
聞きたいのに聞けない疑問を頭の中で回していると、赤井さんは私の頬の処置をし終えていて。
「あ、ありがとうございます・・・」
頬に貼られた絆創膏に手を伸ばしながらお礼を告げると、赤井さんはどこか満足そうに笑みを向けた。
その笑みに一瞬、心臓を掴まれたような苦しさを覚えた意味は、今の私には理解ができなかった。