第12章 LikeはLoveか、別物か
赤井さんの指示に従い、公安や日本の警察に目を付けられない程度に、近くへと移動して。
程なくして赤井さんから場所の指定があり、そこまで車を移動させれば、煙草の煙に包まれながら木にもたれ掛かる赤井さんの姿があった。
「怪我はありませんか」
運転席から降り、彼に駆け寄りながら問えば、赤井さんはゆっくりとこちらに視線を向けた。
「・・・誰にやられたんだ」
「?」
何のことかと首を傾げていると、赤井さんの左手がスッと伸びてきて。
「っ・・・!」
そっと手の甲で触れられた右頬に痛みが走ると、殴られたことを思い出した。
別の事に気を取られて忘れていたが、思い出せば痛みは復活してしまうもので。
「すみません・・・油断しました」
「そうじゃない。誰にやられたと聞いているんだ」
その赤井さんの言葉に思わず視線を上げた。
珍しく、その声色に怒りを含んでいるようだったから。
まあ、直々に截拳道を教えている相手が、こんな無様な傷を作っていれば、怒るのも当然で。
謝罪を口にしようとするが、それを撥ね退けられ、殴ってきた相手を問いただした。
「・・・分かりません。車に向かう途中、数人の男に囲まれました。制圧はできませんでしたが、隙をついて逃げました」
そういえば、あの集団は何だったのだろう。
殺意が無い時点で、組織の人間でないことは確かだが。
「他に怪我は」
「ありません」
問いながら、赤井さんは私の体を舐めまわすように見て回って。
彼が動く度、煙草の煙が私をも包んでいった。
「いくぞ」
「は、はい」
私の言葉が嘘でないと分かってくれたのか、赤井さんは運転席へと乗り込んで。
彼の掛け声に私も慌てて助手席へと駆け込んだ。
「そういえば、キュラソーは・・・」
赤井さんがシートベルトを締めたのを見てこちらもそうする中で、まずは結果を聞いてみたが。
赤井さんからの返答は、首を数回ゆっくりと横に振るものだった。
「・・・そうですか」
彼女の末路を察すると、視線は自然と足元へ落ちていった。
生きて連れ帰る事が出来なかった。
自分にできることは無いに等しかったのに、だからなのか、この結果は悔しかった。